『太陽の子』鄭有傑監督インタビュー 感動の撮影秘話を語っていただきました!<上映会レポート・その2>

人々が忘れかけている、かけがえのないものとは?

この上映会のために来日した鄭有傑(チェン・ヨウチェ)監督に、ナビが単独インタビューさせていただきました!  俳優としてもご活躍なさっているチェン監督、そのイケメンっぷりにドキドキのナビ。

まずは、この映画のもとになったドキュメンタリー作品について伺ってみました。

――チェン監督がこのドキュメンタリーを最初にご覧になったとき、何に一番惹かれて、映画化したいと思われたんですか?

ドキュメンタリー作品の主人公は、共同監督であるレカル監督のお母さんなのですが、その彼女が、「私は自分の土地を、自分の思うように変えていく」と決心する。
その覚悟と行動力に感動しました。

同じようなことがあちこちで起きているけれど、大体の人は、大きい環境の流れ、時代の流れには逆らえないから、あきらめてしまう。
普通は「私一人の力じゃ何もできない。何も変えられない」って考えちゃうんですね。
でも、彼女はそうじゃない。変えられると信じているんです。

実際の話はもっと長いんですよ。
映画の中では1年ですが、実際は4年半ぐらいかけて、コツコツコツコツとやっている。
一人ではできないから、村全体が一緒になって。そのあきらめない姿勢に感動しました。
――今、「あちこちで起きていること」とおっしゃいましたが、チェン監督は、このストーリーはある小さな部族の話ではなく、台湾で今現在起こっていることだ、と考えていらっしゃるんですよね。 実際ここ数十年で、台湾、特に台北はどんどん近代化していますが、それについてはどのようにお考えですか?
台北、というか、都市部はもう長い間、近代化され続けているから、ずっと都市に住んでいる人は、本来あるべき姿をもう忘れちゃってるんです。
それで、休日になると、時間をかけて車を運転して、遠いところに行って、美しい自然とか、そういうものを求める。
でも実は、それは本来、普通にあったものなんです。
それを取り壊しちゃって、今の都市社会になってしまった。

だから、実はこの映画の中の出来事は、何も新しいものじゃないんです。
ただ、本来あるべきものを見直しただけ。

台湾で上映したときも、皆さんが感動されたのはそこだと思うんですよ。
映画のストーリーに感動したというより、その本来もともとあったもの、人間と土地の間にある自然な感情を思い出して、それに感動した。
僕たち創作者が与えたんじゃなくて、もともと観客の皆さんが持っていたものなんです。
――昔からあったいいものが、どんどん失われているということですね。 では、監督が考える「台湾にとって一番かけがえのないもの」はどんなことでしょう?

台湾には、形にできない豊かさがたくさんあります。 そういう島なんです、本当は。

でも今は、そういう目に見えない価値を捨てて、目に見える価値、形にできる価値ばかりを追いかけています。 その目に見えない、形にできないもの、それが一番重要なんだと思います。
©一期一會影像製作有限公司

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(ナビ)それは、人の優しさとか、人と人との関係とか、そういうものも含まれるんでしょうか?

そうです。

それと、もともと人と自然は一体なんですけど、今は人と自然が対立してしまっている。 でも本来、人は自然に含まれているはずなんです。 この映画の舞台、先住民の村には、そういう人間と自然のハーモニーがまだ残っている。 そして、そのハーモニーから生まれてきた美しさ、文化、音楽、信仰、生活の仕方なんかが、いまだに受け継がれている。

でも、それはすごくもろいものなので、今こそ、それらが生き残るかどうかの一番重要なときだと思います。
(ナビ)そういったかけがえのないものを、映画を撮ることで守っていくことができると思われますか?

はい。映画っていうのはそれほど大それたものじゃなくて、映画で世界を変えることはできないけれど、観客の、特に子どもの心に影響を与えることはできる。

この映画は、意識的に子どもでも見られるように作ってあるんです。 実際、台湾では小学生の観客も多かった。彼らはちゃんと理解しているんですよ。 大人はもう、考え方を変えるのは難しいかもしれないけれど、子どもには映画のメッセージが自然と入っていく。そこがポイントなんだと思います。
言葉を選びながら、真剣な表情でインタビューに答えるチェン監督。誠実なお人柄がにじみ出ていました。 言葉を選びながら、真剣な表情でインタビューに答えるチェン監督。誠実なお人柄がにじみ出ていました。 言葉を選びながら、真剣な表情でインタビューに答えるチェン監督。誠実なお人柄がにじみ出ていました。

言葉を選びながら、真剣な表情でインタビューに答えるチェン監督。誠実なお人柄がにじみ出ていました。

子どもの心に、何かを残したい

――監督にもお子さんがいらっしゃると伺いましたが、父親になったことで、映画を撮るときに何か影響がありましたか。

大いにあります。
父親になる前は、子どもに全然興味がなかった、というか、その大切さがわからなかった。 でも、自分に子どもができたからこそ、何かを残したいと思うようになったんです。

実は、この映画の中のメッセージも、まず自分の子どもに残したいという思いがあって、そこから台湾の子どもたちに残したい、さらにもしできれば、太陽の下のすべての子どもに残したい、という気持ちになった。 うちの子どもたちは、3人とも、この映画を10回以上見ているんですよ。もうセリフを覚えちゃうくらい(笑)。

あと、台湾の子どもって外国のアニメばっかり見ているんです。 ディズニーとか日本のアニメとか。

自分の土地のストーリーはほとんど見ていない。 なぜならば、作っていないから。 作り手が子供向けには考えないんです。

だから今回は、子どもも大人も見られるような、年齢層の広い映画を作りたかったのです。

(ナビ)そういう作品になっていますよね。

そう。台湾で一番うれしかったのは、先住民の子どもたちが、伝統の衣装を着てこの映画を見に行くっていう現象があちこちで起こったこと。 それはもう、撮る方にとってはすごく光栄なことなんです。 伝統の衣装を着るっていうのは、このイベントをすごく重視しているという意味なので。

それから、この映画を見た先住民の子どもたち、特にアミ族の子が「我是太陽的孩子」、つまり「私は太陽の子」って言うようになったという話をよく聞くんですよ。

そうやって胸を張って自分がだれかという言葉を言えるのは、すごく大事なことだと思うんです。

(ナビ)それは、監督がこの映画を通じて残したいと思っていたことが、うまく伝わったというか…

もともと、子どもの心の中にあったんですよ。 絶対にあるはずなんです、その誇りみたいなものが。

映画がきっかけで、それを引き出せた。

そういう映画があってもいいんじゃないかってずっと思っていて、だったら自分で作ろうじゃないか、と。
――映画の中で、ナカウとセラの表情がとてもいいと感じる場面がたくさんありました。
彼らは現地オーディションで選ばれたそうですが、プロの子役ではないということで苦労された点、あるいは逆に良かった点などありますか。

苦労はもう、たくさんありました。 彼らは「俳優になりたい」と思っていたわけじゃなく、「夏休みに、ちょっと映画に出てみようかな」という感覚でやり始めたんです。 だから、撮影するときに急に臆病になって「やりたくない」と言い出したり。

実際、ナカウを演じている子が、途中で自信をなくしてしまって、「もう映画には出ない」って言い出したんですよ。 でもそのときは、もう半分まで撮影していたので、今さらやめられない。
©一期一會影像製作有限公司

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それで、いろいろな方法を工夫しました。 カメラを長回しして、その中のワンカットだけ使うとか、あとは、もう彼女の思うようにやらせて、脚本にはないものばかり撮って、それを編集して使ったり。

たとえば、子どもたちがみんなで買い物に行くシーンとか、すごく楽しそうでしょう?  だって、本当に遊んでいるから。
あれは子どもたちのもともとの生活で、カメラがそれについていって撮っているだけなんです。 だから、笑顔とか自然なんですよ。

映画の最初に出てくる、観光客の前で踊ってお小遣いをもらうシーン、あれもまさにナカウ役の子自身の生活なんです。 彼女は週末になるとあそこに行って、ああやってお小遣いをもらう。 それを批判する声も多いけど、それが現実なんですよ。それは、彼らのせいじゃない。
とにかく、そういう苦労はたくさんありました。 でも、だからこそ、あの陸上のシーンが撮れた。 ナカウが陸上のテストを受けるとき、自信をなくして逃げ出しそうになった彼女に、母親のパナイが「おまえは誰だ」って聞いて、彼女が「パンツァ(アミ族の子)!!」って答えるシーン。

あれは最初、脚本にはなかったんです。 でも、あまりにも自信のない彼女を見て、僕はこの子に何かを残したいと思った。 それで、あのシーンを加えたんです。

あれを撮るとき、変更点を母親役だけに伝えて、彼女には僕が新しく書いた脚本は見せていなかった。 だから、彼女が「パンツァ!!」って言うのはアドリブです。

で、それを彼女が本当に自信をもてるまで、十何回も繰り返して、あの力強い「パンツァ!!」が出てOKになった。 そこで、彼女はクランクアップ。それが最後の撮影だったんです。
(ナビ)感動的ですね。 あのシーンはすごくよくて、もともと心に残っていたんですが、あれは演技じゃなかったんですね。

その前の苦労がなかったら、あのシーンも生まれなかったと思うんです。

彼女、今はもう中学生で、この前会ったら、ものすごく背が伸びて、僕より大きくなっていました。 そして、ちゃんと自信をもっていた。

あの子、というか、先住民の子どもの多くは、そんなに恵まれた家庭で育った子じゃないんですね。 親が遠くに働きに出ていたり、出稼ぎの危険な仕事で親族を亡くしていたり…。だから、自信がもてない。

でもあの子は、自信をもって成長していました。 あの映画がいい経験になったんだと思います。

今まで体験したことのない、神秘的な出来事が…

©一期一會影像製作有限公司

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――『太陽の子』の中で、監督が一番好きなシーンはどこですか?

一つは本当に何でもないシーンなんだけど、子どもたちが放課後、歩いて家に帰るシーン。ストーリーも何にもない、すごく普通のシーンですが、それが彼らの日常なんです。

そもそも、この映画を撮りたいと思ったのは、僕が村で実際の生活を見て、その美しさに感動したからなんですが、なかなかそれをうまく表現できなかった。

いつもカメラを向けると、その自然さが失われてしまうんですね。でもあのシーンには、ありのままの美しさがあったと思います。
©一期一會影像製作有限公司 ©一期一會影像製作有限公司

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もう一つは、おじいちゃんがセラに、大きくなったらこの山を登ってご先祖様に挨拶しに行くんだぞって言うシーン。

これはものすごく不思議だったんですが、撮影のとき、あの場所で撮ることは決めていたけれど、何を撮るかは具体的に決まっていなかった。 それで、あの場所に行ってから、僕とレカル監督がどうしようかって悩んでいたら、おじいちゃんとセラが勝手に話し出したんです。

で、気がつくとカメラも回っていた。 録音の方も音を撮っていた。 だれも何の指示もしていないのに、自然にああいうことが起こったんです。

しかも、ちょうどそのとき、チョウが一匹飛んできて、おじいさんの背中に止まったんですね。 これはもう本当にセッティングできない、自然の力が働いたというか…。 で、僕が「ハイ、カット!」って言って、それでもうあのシーンが出来上がっていた。こんなことは初めてです。もう、僕が撮っているっていうような感じじゃないんですね。
©一期一會影像製作有限公司

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――最後に、監督が日本人にぜひ行ってみてほしいと思われるスポットを教えてください。

台湾の東部ですね。

だいたいの日本の方は、花蓮や太魯閣まで行ったら、それより南には行かないけど、その普段行かない、「そこに行って何があるの?」って思われるくらい何にもないところに、実は台湾の一番かけがえのないよさがあるんですよ。

ぜひ、その何にもないじゃないか、っていうところに行ってみてほしい。
そこに何かがあるって期待して行くようなところは、もう大体破壊されているから。
――台湾でオススメの食べ物とか、監督が好きな食べ物はありますか?

たくさんあるけど……台湾の朝ご飯のお店かな。

僕も普段は家で食べるけれど、チャンスがあると、そういう朝ご飯のお店、まだ行ったことのないお店に行ってみるんですよ。 普通の豆漿でも、蛋餅でも、違う店では絶対に違う味を持っている。 メチャクチャ庶民的な食べ物なんだけど、同じ味はまずないから、そういうお店にときどき行くと、発見があるんです。

(ナビ)監督のお気に入りのお店とかあるんですか?

お気に入りのお店もあるけど、僕は、計画しないで、チャレンジするのが好きだから。 だから、ガイドブックには載っていないようなお店に、自分の直感を信じて、おいしそうだと思ったら入ってみる。 まあ、外れも多いんですけど、意外とおいしいものに出会えるかもしれません。

今後の動向に期待!


監督のお話を伺って、ぜひもう一度『太陽の子』を見たい!と強く思ったナビ。 その日本上映に向けて、プロジェクトは着々と進んでいるようです。

まず、7月3日(日)に、台湾文化センターで再上映が開催されました。 その他、地方での上映や、9月に行われる杉並区の台湾フェアでの上映も決定しているそうです。
(詳細は、映画『太陽の子』Facebookページをご覧ください)

また、上映会の翌日、アミ族アーティストのスミンが歌う、この映画の主題歌「不要放棄」が第27回金曲奨最佳年度歌曲を受賞!

この大きな波に乗って、日本の映画館での正式上映が決まることを、ナビも心から期待しています。

以上、台北ナビでした。

正式イベント名:台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター虎ノ門新設1周年記念行事「台湾カルチャーフェスティバル」【映画】台湾映画上映会③『太陽の子』
共催:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター、台湾映画同好会
協力:一期一會影像製作有限公司、野嶋 剛

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2016-07-15

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