国立台湾美術館で開催される「雙年展」。日本人アーティストの作品製作に参加し、美術館の舞台裏を体験してきました。
こんにちは。台北ナビです。皆さん、台湾の国立美術館は台中にあるのをご存知ですか?ここで2009年10月24日から翌年の2月28日まで第2回のアジア・アート・ビエンナーレが開催されています。20ヶ国56アーティスト144作品という規模で、日本からも3人と1組のアーティストが招待されました。今回のナビは、現地製作の作品で大きなインパクトを与えているアート・ユニット「Paramodel」さんの製作作業と、ギネスブックで世界最大の写真集に認定された写真家・外山ひとみさんの「Woman of Vietnam」の展示にボランティアの一人として参加。開幕前の現場をばっちりレポートします!!
いつもは館内のお客さんもゆっくり
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ビエンナーレのお知らせ
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きれいな芝生と広い館内で台中市民の憩いの場となっている国立台湾美術館。展覧スペースだけでも4,700坪というアジアでも最大級の広さです。今回のビエンナーレでは1階のフロア全部と地下のフロアが展示会場で、テーマは「観点」と「観」点(Viewpoints & Viewing Pints)。難しそうですが・・・その意味は?
企画したキュレーターの蔡昭儀さんによると、「一言でいえば、アーティストの目を通してみたアジア世界を、さらに観衆が自分の感覚でまた見る、ということでしょうか。現代の映像文化の中での真偽、グローバル化する社会、根底に潜む民族や宗教など、アジアに存在する種々の問題が私たちのモノを見る目にどういう影響をあたえているかを、アーティストの様々な表現形態を通して“観て”ほしいですね。」 なるほど~。今回の展示品のほとんどが2007年~2009年に製作された絵画、映像、インスタレーション、ドキュメンタリーなど。まさに“今見ているアジア”のアートなんですね。どんな作品があるのかな~(期待のナビです)
クジラのように長く広~い館内
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キューレーターの蔡さん。今回のために調べたアーティストは5000近くだそうです
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さてボランティアの初日、美術館の舞台裏に入るには仕事によって色々なIDが必要。これをつけて開館時間前に専用の入口を通り、アーティストさんのお手伝いに入ります。必要な仕事量にあわせて配属されるので、日によって人数や行く展示場が変わることも。ナビはまずアート・ユニット「Paramodel」さんの製作現場です。
年に2,3回は海外で作品を製作しているという、今注目のアート・ユニット「パラモデル」の林泰彦さんと中野裕介さん。特にプラレール(あのオモチャの!)がドローイングの線のように部屋の床、壁、天井いっぱいにひろがり、さらにはドアから飛び出して無限にのびていく「パラモデル・グラフィティ」という作品は有名で、今回台湾での展示もこのシリーズ。でもデザインは実際の場所で製作しながら最終的に決めていくそうで、レール以外の材料も現地調達、台湾のオモチャや模型もいたるところに出現するとか。
中野さんによると、「子どもがオモチャごっこや落書きをして遊んでいるうちに、それがいつしか一つにつながって、平面だけど空間でもあるような。そういう風なものなんですけど、実は精密に設計されたものでもあって。まぁ様々な要素が同時にいくつも入っているのが僕等の表現方法というか。」だそうです。楽しくお手伝いできそうな感じなのですが・・・
それは箱開けから始まりました。アートハンドラーとも呼ばれる搬入会社の人が日本から運ばれてきた木箱をあけ、先行して台湾入りした中野さんの立会いで点検します。出てきたのは目を見張るほどたくさんのプラレールのカートン。これを図面を元にボランティアたちが床で組み立てます。その間にハンドラーさんたちは、展示室の壁や天井一面に位置を決める水糸を張り巡らしていくのですが、この作業もなかなか大掛かり。大きな脚立やローリングタワーも出動です。おっと、ここで問題発生。展示室の床が平らじゃない~!天井の電気配線ダクトの位置が事前に送られてきた図面と違う~!急遽デザインを変更しなければなりません。
図面変更に追われる中野さん
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複雑な造型は組み立てるのも難し~
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皆が夢中になって図形を組み立てている中、またまた問題が。壁の材質の関係で日本から持ってきた釘が使えない~!急いでボランティアの一人が金物屋さんに走ります。「先生!こ、これでどうでしょうかー!」汗だくになって探してきてくれた釘はなんとかOK。ふぅ~。でも組み立ててあるレールを実際に壁や天井に貼っていくのがこれまた至難の業。水平器を使ってまっすぐに測ったつもりでも直線になってない!やりなおーし!数日遅れて台湾入りした林さんは一人で修正作業に取り掛かります。
林さんに台湾での作品製作について感想をお聞きしました。
「いろいろな国で製作していますが、人工芝張りを現地スタッフに任せられるところは少ないですよ。こっちで両面テープも購入したんですが、1巻きづつ包装されていたのは日本以外では台湾だけ。なんだか日本に一番感覚が近いように感じます。」なんだかほめられているような。ナビもちょっと鼻高に。
壁に貼り跡をのこさない処理のため、さらに時間が・・・
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高所作業車を使ってロビーの大壁面まで。いったいどこまで延びる?
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人工芝の次はスチロールの山々作り。レール貼りは展示室からロビーの壁や天井にも。何日も続く作業に、あ~もう体が・・・。でも休憩もほとんどとらず連日夜遅くまで働くパラモデルのお二人とアシスタントさんを見て、ハンドラーたちやボランティアも交代で頑張ります。照明器具の変更や接着方法の変更などなど、次々に起こる苦難を乗り越え、2週間以上かかってやっとラストが近づいてきました。そしてついに大きなB-1展示室いっぱいに出現したのは、大人も子どもも思わず声を上げる楽しさと夢いっぱいの作品! ボランティアも感無量です。参加したすべての皆さん、ほんとにお疲れ様でした~。
ようやく完成が見えてきた?
プラレールとは思えない美しい模様出現
タワークレーンのオモチャ。かっこい~
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あ、牧場だぁ。
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外山ひとみさんと世界最大の写真集
さて次にナビが配属されたのは、ベトナムから船で2ヶ月近くかかって運ばれてきた世界最大の写真集のチーム。タテ4m、ヨコ3m、見開きで6mにもなるという巨大な作品「Women of Vietnam」は重さ約200キロ。こんな大きなものをいったいどうやって作ったかというと、1ページになる元の写真作品をまず縦に2分割して、大判のインクジェットプリンター(iPF9000)で出力し、60インチ(約1.5m)サイズのロール紙を縦に2枚貼り合わせて1枚の作品に仕上げたんだそうです。だから巨大な上に、なおかつとってもデリケートな作品なんです。
プレスリリースの3日前、来台した外山さんの立会いのもと箱明けが始まりました・・・が、なんとここでも大問題が。輸送過程で写真集のページに波打ち状態が発生、さらには美術館で作った台座がなぜかページがめくれないくらい大き過ぎるという超大問題。重石を置いて延ばす? 台座はどうやって作りかえる? 考えているうちにも時間は過ぎていきます。しかし海外で数々の修羅場をくぐってきた外山さんは的確に状況を判断して、痛んでいる箇所の修復、必要なものの買出し、台座の解決策など、考えられるベストの方法をスパパッと選択していきました。その速さについていくのがやっとのナビ。
4ヶ月の展示に耐えられるよう慎重に
こんなに大きいとめくるにもコツが
大男たちが小さく見えます
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最後にサインを求められる外山さん
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そして外山さんの提案通りにした結果、記者会見の前夜ついに写真集は台座にのり、全部のページをめくるテストも無事終了したのでした(ホッ。
外山ひとみさんはベトナムがドイモイ(刷新)政策をかかげ、経済的な効果がようやく現れはじめた90年初頭のまだ誰も旅をしない頃、スーパーカブに乗って南北ベトナム1万キロの道を写真を撮りながら縦断したすごい女性。ロケット砲で狙われたこともあったとか。現在も「ひと、アジア、生きる」をテーマに、美女から刑務所までいろんな分野の被写体をディープに追及しつづけています。
外山さんからは周りを動かすエネルギーが出ているような
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写真集は2階のカフェからもきれいに見えます
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今回の作品について、外山さんにお聞きしました。
「1993年から2008年までの15年間の過渡期のベトナムを旅して、当時現地の人でさえ危険で行けなかった地域に住む少数民族の子どもたちから、現在のオシャレな都市の女の子たちまで様々な女性がモチーフです。これを見れば、戦後の日本や台湾も経験したであろう大きな時代の変化を再体験することもできるでしょうし、また初めの頃の35ミリのフィルムからデジタルになった現在まで、カメラの進化や、プリンターのテクノロジーの大きな変化も見てほしいですね。」えっと、35ミリフィルムから3m×4mのページの大きさまで拡大するには・・・1万3千倍?!今まで誰も作ったことのない大きさをベトナムで製作し、そしてなおかつこんなに美しくプリントされているなんてほんとに驚きの写真集です。
ビエンナーレの仲間たち
大きな美術館の大きなイベント、ビエンナーレは多くの人たちに支えられてなりたっていました。その中でも一番の要(かなめ)となるのがコーディネーター。王心怡さんはパラモデルさん、外山さんをはじめ15人以上のアーティストを担当して超忙し。作品の搬入から製作、設置、外国アーティストの応対からハンドラーやボランティアの手配などなど、朝から深夜過ぎまで工程表を抱え調整に追われながらも、笑顔を忘れないところにナビ敬服。
先生もこのときは笑顔に
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パラモデルアシスタントの端野さん(右)
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休憩室ではアーティストもボランティアも一緒に同じお弁当。美術学科の学生やギャラリー関係者のボランティアはアーティストにいろいろ質問したり、通訳ボランティアさんは台湾のことを説明したりしています。アーティスト同士の交流も盛り上がってました。
朝から夜遅くまで働くハンドラーさんたち
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希望通りの照明に工夫してくれた電気屋さん
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大工さんの後にはペンキ塗りのオバちゃん
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メイキングのビデオを撮るボランティア
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細かい役割分担が決まっている美術館。ナビはいろんな人たちに会いました。短いようでとっても充実した日々。すごく疲れたけどビエンナーレのボランティア楽しかったです。
外山さんアシスタントの田端さん。パソコン接続で大活躍
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開幕式後のパーティは皆で。最高~!
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完成したよ~(現場ボランティア)
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電話連絡とお弁当のことなら任せて
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今回ご紹介した作品の本物を見てみたいという方は、ぜひ台中の国立台湾美術館「2009アジア・アート・ビエンナーレ」へどうぞ。他にもすばらしいアート作品やデジタル作品がいっぱいです。美術館の音声サービスやWebサイトで事前にアーティストや作品について知っておくと、またずっと面白く見てまわれると思います。
以上、前よりもっと美術館好きになった台北ナビでした。
基本情報
国立台湾美術館
住所: 403台中市西区五権西路一段2号
電話番号:04-23723552
開館時間 火~金 09:00~17:00 土・日09:00~18:00
休館日: 月曜日
美術館Webサイト:
http://www.ntmofa.gov.tw/
「ビエンナーレ2009」Webサイト:
http://www.asianartbiennial.org/2009/
その他
ビエンナーレ期間中も通常も入場無料です
行き方・交通
台中駅より
バス:仁友客運59、89路線、台中客運71路線、統聯客運75路線
「美術館」または「文化中心」バス停で下車
タクシー:約10分 150元
新幹線台中駅より
タクシー:約15分 200元
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2009-11-13