タイヤル族 祖霊祭 後夜編~歌と酒とあいのみ~

明け方になると、家々のドアが開けられ、伝統衣装に身を包んだタイヤル族が出てきます。300人で向かう先は、先祖が眠る墓地。

こんにちは、台北ナビです。

「祖霊」を敬うことが、部族の根底に流れている、台湾の原住民族「タイヤル族」。8月から9月にかけて各部落で「祖霊祭」という行事が行われるということで、昨夜からある部落にお邪魔しているナビたちです。単なるお祭りではなく、彼らにとっては、何百年も守られてきているとても神聖な行事。行事を通して、彼らの現在の多元的な信仰スタイル、開放的な生活様子を垣間見ることができました。

► 日の出とともに教会へ集合

昨晩、遅くまで頭目(その部落のタイヤル族を率いる長老)と小米酒で宴会をしていたナビ。翌日の予定を聞くと、こんなスケジュールが発表されました。 
昨晩から、皆がしきりに、明日の祖霊祭のために、お供え物の準備に躍起になっています。一年の収穫物を笹の枝に刺し、お墓参りの時にそれを奉納するそうなのです。いかにも、タイヤル族の伝統を醸し出すお供え物です。

タイヤルの人は「お供え物は、少なければ少ないほど、得るものが多い」と言います。少ないほうが、「これだけしか取れなかったから、次は、もっとたくさんください」ということを表現できるんだそう。
プログラムでは、「教会前に集合」になっています。教会はカトリックの教会。祖霊を祭る祭典で、なんだか宗教的にちょっと矛盾していませんか?なんてちらっと思ったナビ。

そういえば、台湾の原住民族のほとんどはクリスチャンだと聞いたことがあります。たしかに、どの家の中にも十字架やイエス・マリア像が飾ってあり、それでも一方で彼らは、このようなタイヤル伝統行事も固く守り続けているのです。いったい、彼らの生活に根付く信念とはどんなものなのか!?太陽が昇り始める前に、心の奥から湧き上がる大きな疑問を避けずにはいられませんでした。

► 伝統を守るために

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明け方、暗かった星空が白みがかる頃、家々のドアが次々と開けられ、中から白と赤の織物の伝統服で着飾ったタイヤル族が現れます。男子は白の、女子は赤の織物をまとっています。いつもは短パンにTシャツの彼らも、この日だけは、この服を着なければいけないのです。昔は男子しか参加できなかったこの行事ですが、時代の流れとともに、男子は平地へ出稼ぎに行き、村に残るものは、女性・子供・老人になってしまいます。そのため、一昨年から女子もこの行事に参加できるようになりました。

頭目いわく、「女子にも伝統を伝えていかなくては、いつかこの伝統の精神が消えてしまう」と。
この部落では、昨晩作られた竹に刺さったお供え物は3セットしか作られませんでした。昔はこの行事は男子しか参加できず、この竹のお供え物は、男子は一人一本持つのがしきたりだったんだそう。

► 祖霊があつまる場所へ・・・

こうして、おびただしく教会の前に集まった部落の人々。ざっと見て300人ぐらいはいそうです。そして、最後に全身タイヤルルックで決めた頭目が現れると、さて、皆でお墓まで出発です。
300人で、早朝日の出とともに「お墓参り」をする、というのは初めての経験です。
日本では、家族単位で、蚊に刺されながら、2-3時のうだるような暑さの中、汗を流しながらお墓参りに行き、ヤカンに入れた水がすぐにぬるくなってしまったのを覚えています。しかし、タイヤル族の皆でお墓参りに向かう気分は、日本の情景とはちょっと異なり、朝の透き通るような空気の中、皆がそれぞれ自分の祖先を思いながら、上る太陽とともにお墓に向かう姿は、まさに「人類みな家族」。
お墓へ向かう道中、頭目がナビに「今から、ご先祖様を呼び起こすからね」と言うや否や、また朗唱を始めました。単調なリズム、単調なメロディですが、その300人の集団を先導する82歳のTALIさんの目には、伝統を守りたいという思いが声となってしっかりと表れています。
墓地に到着。
ずらっと並ぶ十字架が描かれたお墓。やはり原住民の宗教と、平地の一般台湾人(道教と仏教を信じる)の信仰は、違うものなんですね。お墓を見て、はっきりとわかりました。

お墓参りを始める前に、お墓エリアに入る入口の枝に「モチ」入りの袋を枝に縛り付け、川沿いのがけに設けられた竹製の棚に、昨晩から準備したお供え物を並べ始めました。その後は、各家族で、各家庭のお墓の前で手を組んでお祈りをしています。お墓に備えられるものは、線香ではなく蝋燭そして生花です。

しかし、お祈りが終わった後に、紙のお金を燃やす人々を発見。(神のお金を燃やす風習は、台湾の道教の風習です)よく見たら、十字架のお墓の前にも獅子が!龍の絵が!

この様子を見ながら、原住民の人々の生活の中にも、かなり平地の習慣が流れ込んできているのだなぁ、としみじみと感じるナビなのでした。それでも、やはり「祖霊」を敬う儀式だけは、まだ強く残っているところから、やはりタイヤル族とは「祖霊」有きの民族なんでしょうか。
タイヤル族 祖霊祭 後夜編~歌と酒とあいのみ~  タイヤル族 祖霊祭 原住民米酒 ←↑川沿いのがけにお供え物を並べています。

←↑川沿いのがけにお供え物を並べています。

30分ほど墓参りが行われている間、頭目と副頭目は、何やらぼそぼそとタイヤル語で話をしています。ご先祖様とお話しているんですって。
最後に、お墓と部落をつなぐ道に小さな焚き火が設置され、最初に木に括りつけられたお餅を木から取り外し、皆一口お餅を口にしたかとおもいきや、その焚き火をジャンプして乗り越えていきます。この焚火のジャンプは、霊界と現世の境目を表しているようで、これをジャンプして乗り越えないと、霊が離れなくなってしまうのだと言います。

► 朝から豪勢に飲もう食べよう!

その後は各自が自宅に戻り、朝ごはんの宴会です!この時点で朝の7時。通常ならナビはまだ寝ている時刻です。ナビと別ナビはこの部落の小学校の先生のご自宅に招待されました。すると、玄関の前のポーチの庭に、もうずらずらっと家庭料理が並んでいるではありませんか。
いったいこれだけの料理いつ作ったんだろうと思わずにはいれませんが、きっとこの「祖霊祭」の夜は、皆寝ずに朝のために準備をし、墓参りの後のこの「食事」の時間が、皆が最も解放されるときなのかなと思います。

連なる緑の山脈と、高らかに響く鳥の声、目の前には豪華な料理、そして朝の涼しい空気の中でいただく小米酒。これ、口では言い表せないほどの、絶品です。これから始まる朝を、愛する家族と、美しい自然に囲まれて、酒とともに過ごすこの素晴らしさ、ナビは経験したことがないものでした。
食べ始めると、周りの近所の人が、また自宅の小米酒を携えて、挨拶に訪れます。またそこでもお酒を飲まされ、ナビついに8:00の時点でノックダウン!そりゃ早朝4:00から飲んでいたら、無理もないですね。
タイヤル族 祖霊祭 後夜編~歌と酒とあいのみ~  タイヤル族 祖霊祭 原住民米酒 ←↑ナビがノックダウンしている時、お母さんたちはせっせとごちそうを仕込んでいます。

←↑ナビがノックダウンしている時、お母さんたちはせっせとごちそうを仕込んでいます。

椅子に座ってボーっとアルコールがひくのを待っていると、大きな放送が村全土に鳴り響きます。よく聞いてみるとこれは頭目TALIさんの声ではありませんか。何か歌っています。どうやら、「これから頭目の家で部落のパーティーを始めるから、みんなすぐに集合すること」という命令らしいのです。

► 餅つきと踊りの二次会

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さて、校長先生のご自宅と、頭目の家はすぐご近所。部落は非常に小さいので、どこも歩いていける距離です。ナビが頭目の家に来てみると、もう大きな臼と杵が準備されていました。このタイヤル族ももちを食べる習慣があり、この祖霊祭の日には、皆でお餅をつくらしいのです。ナビもさっそく挑戦。が、日本の餅つきと違い、モチに水を差さないので、モチが杵と薄にべったりとくっつきます。杵自体は重くはないのですが、モチがくっつくので、結局とっても難しい餅つきとなるのです。
そうこうしていると、中央でそれぞれの家族の紹介が始まりました。実はナビも日本では大家族の中で育っているので、いつもお盆や、お正月に一族が集まると、それぞれが部屋の中央に集まって自己紹介をするのです。ここでも「長男は今どこどこの大学で何々を勉強していて、次女は今高校生…去年はうちの家族にはこんなことがありましたが、今年はこんな一年であってほしいです」と説明する様は、まるでナビ自身のお盆の過ごし方と同じ。なんだか故郷を思い出してしまいました。
さて、それぞれの自己紹介が終わると、後ろのほうで、皆が円を組み始めました。なんだ?!どんな儀式が始まるのかと思っていると、大音量でタイヤルの音楽が流れ始め、皆でステップを踏み始めました。あぁ。この踊り、そういえば台北県の烏来の原住民ダンス劇場でみたなぁなんて思っていたら、ナビいつの間にか、頭目と副頭目に引っ張られて、踊りに参加。簡単なステップなのでナビでも簡単に習得できました。皆で笑顔で輪を組み踊るのは良いものですね。輪の中心では、お酒を配るおじさんがいて、ナビも踊りながらも、またお酒を数口飲んでしまいました。
お酒を配っている人たち。配りながらも飲んでいます。 お酒を配っている人たち。配りながらも飲んでいます。

お酒を配っている人たち。配りながらも飲んでいます。

さて、そんなこんなでもう時は昼11時を過ぎようとしていました。そろそろ帰らないと…と思い、頭目にその旨を伝えると……

「えぇ、もう帰ってしまうのですか!?  それはさみしい。では帰る前に、再度もう一度、『送別の歌』を謡わせてください。さぁ、また輪に入ってください!」

と、ナビたちはまた踊りの輪の中に。ナビと左手で手をつなぎ、右手のマイクでゆっくりと送別の歌を歌い始めます。大きく渋い声の別れの歌が、祖霊祭のはなやかな会場に人割と響きわたります。
まさか、正月とお盆を一緒に体験したような旅になるとは、思いもよりませんでした。飲んで食べて踊って、でも、やはり歌で始まり歌で終わった、象鼻村での0泊2日の旅。

以上、台北ナビでした。
関連タグ:タイヤル族祖霊祭原住民米酒

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記事登録日:2008-09-17

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