タイヤル族 祖霊祭 前夜編~歌と酒とあいのみ~

タイヤル族の頭目と仲良くなるには、どうすればいいのか。躍起になるナビの奮闘ぶりをレポート。

こんにちは、台北ナビです。

2008年8月9日のこと、原住民タイヤル族のある部落から招待を受け、タイヤル族の祭典を見学することになったナビスタッフ4人。この時期は日本ではお盆シーズンですが、実はタイヤル族たちもこの8月から9月初旬にかけては、日本のお盆に似たような行事が行われ、祖霊祭と呼ばれています。離れ離れになった部落の家族が、この日一日は村に集い、部落の仲間と交流をかわし、お墓詣りを通して先祖に一年の収穫感謝と次の一年の祈願を行います。タイヤル族にとってみれば、一年で最も大切な日なんだとか。

ナビにとって初めての原住民との交流…たくさんことを学ばせてもらいましたが、ひとつ心に残っていることに、「酒と歌と歓迎」の関係があります。ナビの「歌」の概念を大きく覆した、今回の「祖霊祭」。少しづつご紹介することにしましょう。
部落に近づくと、原住民の像が。

部落に近づくと、原住民の像が。

今から行くところは、苗栗県象鼻村泰安部落です。この看板の隣には、かつての検問所がありました。

今から行くところは、苗栗県象鼻村泰安部落です。この看板の隣には、かつての検問所がありました。

夕方になってきました。

夕方になってきました。

霧が出てきた!前が見えない!

霧が出てきた!前が見えない!

何とか民宿に到着。

何とか民宿に到着。

► 歌を歌ってもらおう

夜ごはんを済ませた19:30ごろ、NAVI一行はその部落の頭目(部落をまとめる長老)のご自宅にご挨拶に伺うことになりました。頭目に会いに行くその道中、別ナビがぽろっと、「タイヤル族が歌を歌う様子をどうしても見たいの。」とナビに訴えかけたのです。どうやら、民族学を研究している別ナビは、原住民の歌にとっても興味があるらしく、その願い、ナビも協力することにしました。
原住民料理の晩餐。全体的に塩辛くて味の濃いイメージが。

原住民料理の晩餐。全体的に塩辛くて味の濃いイメージが。

暗い山道を歩きます。

暗い山道を歩きます。

御歳82歳の頭目、TALIさん。原住民であろうと台湾人であろうと、台湾育ちで75歳以上の方々は日本教育を受けていますので、日本語で十分コミュニケーションが成り立ちます。ナビたちは中国語ではなく、日本語で会話を始めることに。

「わしは、もう日本語なんか、忘れたんだよ。長いこと話していないから」と何度となくそっけなく口にするTALI頭目を横目に、ナビは内心「絶対楽しい一夜にしてみせる」とめらめらと闘志を燃やしていました。どうすれば、この頭目との「壁」を乗り越えられるか。それが今夜のテーマです。
「日本語なんか忘れてしまったよ」と自嘲するTALI頭目

► さっそく「小米酒」から

ご挨拶に訪れると、お決まりの原住民手作りの「小米酒」が登場。これは各家庭で作られる”粟”で作られたどぶろくのようなお酒。短絡的なナビは、場を盛り上げるために、とりあえずTALI頭目とお酒を飲み始めることにしました。

原住民の人は、私たち日本人と同じく、何か有れば 小米酒 を飲むことが習慣です。楽しい時、暇な時。悲しい時は、友があつまり、その中心にかならず置かれる小米酒。そして今日も、竹で作られた小さな杯にトクトクとお酒が盛られ、ナビたちの前に出されました。
これが小米酒の盃
どんどんと作られる小米酒。今晩と明日のためでしょうか…恐ろしいほどのたくさんの量です。 どんどんと作られる小米酒。今晩と明日のためでしょうか…恐ろしいほどのたくさんの量です。

どんどんと作られる小米酒。今晩と明日のためでしょうか…恐ろしいほどのたくさんの量です。

別ナビはお酒を飲みながら「歌を聞かせてほしいの。タイヤル族の歌を」としきりに頭目にお願いしています。しかし、頭目は「そんなの聞かせたって、あなたたちにはわからないよ」「忘れてしまったよ」「大した歌じゃないから」となかなか乗ってくれません。

しかし、他のタイヤル族の方が言うには、「まだお酒が足りない。気分が乗ってくると、自然と歌い始めるんだよ」というではありませんか。ということで、引き続きお酒を飲み続けることに。なんだか、会社の忘年会のような「とにかく飲むぞ」てきなノリになってきました。

► 歌うとはなんぞや

頭目とお酒をかわし始めて一時間半、周りの人の「歌が聴きたい」という思いはなかなか頭目には聞き入られません。「ここは、お願いするだけではだめなのか。私が楽しませるしかない。」と変な使命感を感じたナビは、「せっかく、今日こうして会えたのですから、私が今日は頭目のために、日本の古い歌を今歌いましょう。」と大胆に提案をすることに。

立ち上がったナビは頭目の目を熱く見つめて、小学校三年生の時に授業で習った「おぼろ月夜」を必死に歌い始めました。実は堂々と歌いながらも、「頭目はこの歌を覚えているだろうか…『なんて、おてんばな娘なんだ』なんてさらに不信感を募らされたら・・・」と不安でいっぱい。
すると、鋭い目つきでTALI頭目の口が動きました。

「ははは。娘子はいつもこんな歌を歌うんだよなぁ。ははは。よし、それなら、わしも一曲・・・・『♪もーもたろさん・ももたろさん。お腰につけた・・・♪』

歌だ!でも、惜しい、日本語だ…。

桃太郎さんの曲は台湾ではかなりメジャーな童謡に入るので、TALI頭目がこの歌を歌ったのもうなづけます。ここまで来たら、やはり「タイヤル語」の歌が聴かずにはいられません!
その後のお酒の応酬のことは、ナビはあまり覚えていません。いったい何杯飲んだことでしょうか。さすがにお酒になれている原住民の人々はちょっとやそっとではお酒に酔わないんですね。ナビも限界に近づいたころ、ようやくTALI頭目のテンションが上がり始めました。

► 「合い飲み」初体験

頭目 「アイノミって知ってるかい。今日は久しぶりに日本語を話せて、楽しい日だから、ナビさんとあいのみをしようではないか」

さて、この「アイノミ」がくせものなのです。この「アイノミ(合い飲み)」はもちろん日本語からきていて、原住民の間ではまだ使われている単語ですが、この動作は、非常に「関係が親密である」ことを示すんです。兄弟間、親友の間、友達の間、気分が乗れば、「あいのみ」を始めるのが、彼らの習慣です。

最初「合い飲み」というものがわからなかったナビに、頭目と副頭目が合い飲みをして見せてくれました。
「…」

ちょっと頭が真っ白になったナビでしたが、小米酒の威力はすごく、また「頭目の歌が聴きたい!」という思いも相成り、ナビも誘いにのり、頭目とのアイノミに応じることに。「こりゃ、神道の結婚式みたいだ」なんて内心思いながら、82歳の頭目とお酒をぐびぐびと飲みきってゆくのでした。
頭目の家は、内装が竹になっています。タイヤルの伝統家屋をほうふつとさせます。

頭目の家は、内装が竹になっています。タイヤルの伝統家屋をほうふつとさせます。

BBQもしています。明日のお供え物を焼いているのです。焼き終わると…

BBQもしています。明日のお供え物を焼いているのです。焼き終わると…

こんな風に笹の枝に刺されていきます。

こんな風に笹の枝に刺されていきます。

次の日の朝、こんな風にして、お墓にお供えしに行きます。

► 聴以耳傾 耳を傾けて聞け

すると、突然、高らかに声が響き始めました。頭目が歌を歌い始めたのです。

歌というより、日本の「詩吟」に近いところがあるかな、なんて思いながら、耳を傾けていました。同じような単調なメロデイーが幾度も続き、折り重なるメロディーですが、しかし歌っている歌詞は同じではなさそうです。その、朗唱にも近い、力強い歌声が、あたり一変に響き渡り、タイヤルの仲間も、日本人も、皆耳を傾けて、必死に聞き込みました。

もちろん、タイヤル語で歌ってくださったので、ナビたちは、まったくその歌詞の内容を把握はできなかったのですが、初めて聞く彼らの歌は、ナビの「歌」の概念を覆しました。
この歌の意味は、「遠く日本から来た友人たちを歓迎するという意味の歌」らしいのですが、すべて即興なのです。頭目が、その時感じた流れる感情のままに、メロディーに乗せてその感情を歌としてあらわしているのですね。だから、そうなんです、本当に感情の高まりがキーポイント。緊張してよそよそしい状態では、歌おうと思ってもその「歌に込める感情」が出てこないのです。

聞くところによると、歌で会話をする原住民もいるんだとかいないんだとか…。私たちは、「歌を歌う」というと、楽譜に書かれた一定のメロディーとそれについた決まった歌詞を歌うという状態を想像しますが、彼らにとっての「歌」の概念とは、私たちのそれとは違う気がしました。原点に戻った「豊かな感情表現」の一つなのでは、と感じました。どおりで、最初にいくら「お願い」してもなかなか乗ってくれなかったわけです。感情の高ぶりは、強制してできるものではないですからね。

こうして、頭目と仲良くなったナビですが、まだこの時点で夜10:00。夜はこれからが正念場。お酒はどんどん注がれ、横にはアルコール度数50度以上の高粱酒までがこっそりと置かれています。今日は年に一度の原住民のお盆(厳密には祖霊祭)。愛する家族と部落の仲間が帰ってくる楽しい夜。明日の夜明けには部落の皆数百人で、お墓詣りに行くことになっています。それまではお酒を飲んで楽しく一夜を過ごさなければ…
タイヤル族 祖霊祭 前夜編~歌と酒とあいのみ~ 原住民 祖霊祭 祭り 頭目 タイヤル 高砂族お祭り それでは、ナビもさらに続けて、再度小米酒であいのみだぁ! 

それでは、ナビもさらに続けて、再度小米酒であいのみだぁ! 

・・・・・明朝の祖霊祭に続く・・・・・

以上、台北ナビでした。
関連タグ:原住民祖霊祭祭り頭目タイヤル高砂族お祭り

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2008-09-09

ページTOPへ▲

その他の記事を見る