「一青妙」独占インタビュー

真珠の輝きを持つ一青妙さんは、日台で活躍する女優さん。その気品あふれる口元から、幼いころの台湾での生活も交えて語ってくれました。



こんにちは、台北ナビです。じっとりと汗ばむ暑い昼下がり、クーラーがキンキンにかかるタクシーに素早く乗り込み、市内のとあるホテルに向かいました。大理石の床がテラリと輝き、宿泊客のコツコツというハイヒール音が響きます。ホテル内のシックなカフェで待つこと数分。遠くの方からそよそよとやってきた女性が、今日ナビが約束をした「一青妙」さんでした。


知性を感じさせ、シンプルでいて上品なたたずまいが、いかにも「舞台女優」という感じです。けしてテレビによく出ているような、ギラギラとした雰囲気は感じず、胸元につけられていた一粒の真珠のペンダントが、淡く輝いていました。真珠が似合う女性になりたいと思ったナビ。
一青妙さんをあまりご存じでない方もいらっしゃるかもしれませんね。彼女は小学生時代を台湾で過ごした日台ハーフ。現在は、女優として舞台やテレビドラマなど幅広く活動されている傍ら、都内で歯科医院を営んでいます。
名前を見て気付いた人もいるかもしれませんが、妹さんは歌手の一青窈さんです。

小学生時代を台湾で過ごした妙さんですが、その全身から漂う雰囲気は「いささかも台湾らしさ」がありません。洗練され、落ち着いた知性あふれる、東京的大人の女性。良くも悪くも、「冷静に考えるよりも、勢いで先に突き進む!」という情熱台湾で、子供時代を過ごしたというのがとても想像できないのです。
 しかし、「オアミソ(カキの麺線)とか、臭豆腐が恋しくなるの」なんて、「やっぱり台湾で育ったんだなぁ」という発言もたくさんありました。

ナビが妙さんのことを知ることになったきっかけは、二年前にさかのぼります。ちょうどそのころ、公開された、九イ分がテーマのドキュメンタリー映画「風を聴く」 、この映画には別のナビスタッフが取材に行っているのですが、その映画のナレーションを務めたのが、妙さんでした。人の心を和ませるようなその声は、ナレーション上だけではなく、こうしてお会いして肉声をお聞きしてみても感じ取れるものです。
その後、ナビは八田與一という日本統治時代の台湾に貢献した人 物の取材を進めていくうちに、また一青妙さんの名前を耳にすることになりました。現在石川県の北国新聞社と虫プロダクションが製作している、八田與一がモデルになったアニメーション映画「パッテンライ 八田来」の中で、八田與一の妻外代樹の声優役として出演されているのです。「風を聴く」や「パッテンライ」など、かなりコアな映画に二回も起用される日本人というので、かなり印象深く、かねてから一度お会いしてみたいなと思っていたところ、今回映画会社からの紹介で、インタビューが実現する運びとなりました。
ナビB.今回八田與一の妻の声優役として抜擢されましたが、どのようなきっかけで、そうなったのですか?

妙.一年ぐらい前に、台日文化経済処をはじめて訪れた時、この映画のお話をお伺いしたんです。その場でとても共感し、声優として参与できないかなと思いました。

ナビB.八田與一について、私も最初はまったく詳しくなかったのですが、妙さんはどうですか?

妙.
私も、あまり知りませんでした。一般の日本人も彼のことを知りませんが、でも、石川の人は、けっこう知っていると聞きましたよ。台湾人でも意外に若い人は、名前ぐらいは知っているようですね。逆に台湾人でも40代以降の人はあまり知らないとか。教育のせいでしょうか。

ナビA.
最近の中学校教育には台湾史があって、だから若い人は勉強したことがあるみたいですよ。教科書にもわりと詳しくのっているらしいです。

妙.私、小さい頃は大陸史しか学んでいなかったんです。だから台湾の歴史とか、台湾のことってあんまり知らなくて、しかも日本に戻ってきて、中学校。基本的な日本史の授業も、他の人に比べてあまりとれていないのです。でも、このように、台湾と関わる深いお仕事をいただくたびに、今までずっと理数系だった私が、歴史の重要性を認識できるようになりましたね。


ナビA.お父様が日本統治時代の台湾人の方なので、日本語はペラペラだったと思うのですが、幼いころ、日本の家庭内で父親が台湾人だっていうことを認識したことはあまりなかったのではないですか?
妙.その逆でした。日本語は完ぺきな父でしたが、三ヶ月に一度は台湾に帰るのを幼心にも覚えていて、父は日本人ではないとわかっていましたね。その後台湾で生活するようになり、クラスメイトからは「日本人だ!」と好奇の目でみられ、そしてまた日本に戻った時、クラスメイトからは「外国の子」という感じで見られていた時期もありました。だから、若い時は、台湾出身ということを、ひたすら隠し続けていたんです。大学時代の友人が『えっ、あなたハーフだったの?』なんて後でびっくりされるなんてことが、つい最近までおこっていたんです。

ナビA.20年前に比べると、日台の往来もとても頻繁になりましたからね。昔は『ニホンジン!』なんてみんな物珍しそうな感じのところもありましたが、現在の台湾は、もうだいぶ日本慣れしていますね。

ナビB.パッテンライも含め、台湾や中国語とかかわるお仕事をこなしていく上で、現在の日台交流にどんな印象をもちますか?また、仕事を通してどんな影響を与えたいですか?


妙.そうですね。「風を聴く…」は九イ分がメインでしたが、台湾の地方都市は、まだ観光地としてあまり知られていないんです。有名な場所と言えば九イ分ぐらいでしょうか。でも、本当は、もっとほかの地域にも見るべき所がたくさんあり、仕事を通して、地域観光開発に貢献していきたいと思っています。


ナビB.映画は、日本統治時代の台湾が舞台になっていますが、60年たった今、台湾と日本との関係について、どんな印象を持っていますか?
妙.確かに、台湾に来ると、皆さん、とても熱烈に歓迎してくださって、私もその点はとても感謝しているんです。でもその裏で、本当はどうなんだろうと思うことがあります。兄弟が離れ離れになってしまった状況、それでも皆過去のことは気にしないように、日本を慕ってくれている、でも心の裏にはもっと違うものがあるのではないか。そう思う時があります。


ナビA.個人的経験ですけど、台湾は今に始らず、昔から外国の影響を強く受けてきたところがありますね。だから、台湾人自体、苦難に打たれ強いという特性を持っているような気がします。私のまわりでも、過去のことは過去のことと、竹を割ったようにきっぱりした人が多いですね。また、台湾では世代間で教育が大きく違いますから、世代間によって過去・歴史に対する認識も相当違いますね。
ナビB.八田與一の映画のなかで、奥さんの声を担当されていますよね。でも奥さんの資料ってあんまりないんですよ。本当に、大和撫子で、一歩下がって、夫を支える、という伝統的な日本の女子というイメージしかありません。妙さんの妻外代樹に対するイメージはどんなものですか?

妙.そうですね、控え目だけど、芯が強いといった感じですかね。たしかすごく若い時に日本から嫁いできたんですから、よっぽどしっかりした人だったんでは、と推測しています。実は、映画自体、あまり奥さんは出てこないんです。二人の少年たちの掛け合いを元にストーリーは展開するので、奥さんの会話はあまり主張のあるものではなく、『そうなのね。』とか『あなた…』とか短いものが多いんです。ただ、外代樹が好きだった歌を歌うというシーンがあるんですよ。最初は<赤とんぼ>だったんですが、その後、外代樹が好きでよく歌っていたといわれる<からたちの花>北原白秋作詞・山田耕筰作曲 に変更したんです。覚えましたよ~
ナビB.こういった台湾の仕事を通して、何か感じたことはありますか?個人的にどんな人に見てもらいたいですか?

妙.どんな人にも見てもらいたいのはもちろんですが、日台ハーフであったり、台湾と少しかかわりのある人に見てもらい、台湾に対する理解をもっと深めてもらいたいと思っています。どんなガイドブックも、多くの台湾のインフォメーションは似たり寄ったりで、文化の面であったり、歴史の面であったり、深い内容はあまり書かれていません。ナビさんの立場もそうですが、もっと新しい台湾を皆さんに伝えていければと思います。
仕事を通して、自分が一番変わったというのは、やはり『自分は台湾で育った』と堂々と言えるようになったことでしょうか。今までは自分の過去をひた隠しにしてきましたが、年齢を重ね、経験を積み、そして仕事を通し、もっと積極的に自分の過去と向き合えるようになりました。そして、やはり、『台湾語』の重要性でしょうか。台湾をもっと深く理解するには、『台湾語』の習得は欠かせないものです。少しずつ勉強していきたいと思っています。


そのほかにも、いろいろと子供時代、台湾で過ごしたときのことを話してくれた妙さん。ナビは妙さんが過ごした20-30年前の台湾のことは知りませんが、目の前の「日本人の都会的女性だ」と思い込んでいた方の口から、台湾の一昔前のことがありありと語られるのに、すこし不思議な感じを受けました。人間、話してみないと、わからないものですね。

台湾滞在数年でこれだけの変化があったナビ自身ですから、幼いころを台湾で過ごした妙さんにしてみれば、きっと私の何倍もの濃い台湾を経験されているのでしょう。その経験を花咲かせ、これからも台湾をはじめ中華圏・日本で、ますますご活躍されることを祈っています!

台北ナビでした。

関連タグ:一青タレント女優八田日本台湾人

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2008-10-27

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