九份の歴史風土を細かに描いたドキュメンタリー映画「風を聴く」には、土地の人が多数登場。映画に出演する日本語を話す人情あふれる人たちを訪ねる旅をしてみませんか?
こんにちは、台北ナビです。「九イ分が日本のドキュメンタリー映画になったんだ」とチラシをみせてもらったのは、ナビゾーいきつけの茶芸店「阿妹茶酒館」でのこと。若旦那の許さんが話すには「僕の父もでている」というのでチラシを見ると、確かにオヤジさんが笑顔で写っていました。そのオヤジさんはというと、後ろの席で知り合いと思われる日本人と昔話に花を咲かせ、軍歌をアカペラで歌い始めるほどのご機嫌。
その後、そのドキュメンタリーを撮影した林雅行監督が、ナビプラザに訪ねてきてくれて、「日本で上映する前、8月に瑞芳と九イ分で上映会があるんです」という話だったので、映画も拝見したかったナビゾー、上映会におじゃますることにしました。
瑞芳駅前。上映前に駅前通りの突き当たりにある夜市の屋台で炒飯を食べて、上映中も何か食べながら、と思い豆花と胡椒餅を購入。野外上映なんて久しぶりで、なんだかウキウキした気分になりました。ちょうど薄暗くなる時間、ロータリーはすでにお客さんで埋まっています。そのうちに前列に座っていた林監督が、このドキュメンタリーの主役ともいうべき江さんと肩を並べて挨拶。監督いわく、今回の上映会は、撮影に協力してくれた地元の人たちへの感謝のしるし、とのことです。
露天上映会。
ローカルな香りが漂う、いいムード。
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上映前に監督と、
主役の江さんのあいさつ。
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さて、2時間にわたるこのドキュメンタリーは、19世紀末、日本が台湾を領有するところから始まり、九イ分が金鉱の町として発展していくところから始まって、江さんが生まれたころの九イ分の賑わいなどが江さん本人や、その年代を生きた人たちの口から語られてゆきます。
大東亜戦争のころ、目の前をアメリカの戦闘機が飛び交っていたことや、落下傘で落ちてきたアメリカ兵と奮戦した住民の話や、戦後まもなく国民党軍が入ってきた際「日本語を話すこととゲタをはいて歩くことを禁ずる」と強要された、などというエピソードなど、体験者ならではのリアリティあふれる話がたっぷりでした。
歴史の解説も含めて、
ストーリーは進みます。
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日本語のナレーションに、みなさんひきつけられているようでした。
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戦後、鉱夫として苦労した人たち、その家族、鉱山が没落してから集まり始めた芸術家たちの話など、九イ分の歴史を知る登場人物は20人以上になるでしょうか。数時間観光したくらいでは知りえないストーリーが語られていました。
観光で九イ分に行った人の中には「九イ分って小さな街だし、ショッピングアーケードみたいで、思ったほど味わいがなかった」という印象しかなかったという人も多いと聞きます。そこでナビは、九イ分をもっと楽しんでもらうために、林監督に後日撮影場所を教えてもらい、映画に携わった人々がいるところを訪ねてみることにしました。
瑞芳駅。
九イ分の旅は、ここからはじまります。
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歩いていると、
やはりお墓が多いのに気づきます。
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まずは、江両旺さんに会いたい!
九イ分生まれの江両旺さんは、この映画の中では水先案内人的な役割を演じる中心人物。歴史に翻弄されながら、苦さも甘さも知り尽くした厳しさが顔に刻み付けられているような人で、林監督が「この人を中心に作品を作ろう」と思わせるだけの貫禄をもっています。
1927年生れの江さんは日本語教育を受け、18歳で日本兵として徴兵されようという矢先に終戦となったといいます。戦後九イ分に戻って金の採掘に携わり、鉱山を経営する台陽公司の子会社に入社してからは、会社ひとすじ。今は台陽公司の資料管理にたずさわっています。
映画の主人公・江兩旺さんと、
監督・林雅行
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台陽公司の展示室の中には、
鉱夫たちのヘルメットなどが並ぶ
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さて、その江さん、退職後の今も台陽公司にちょくちょく顔を出しているそうです。事前に連絡があれば、事務所内にある資料館の案内もしてくれるそうなので、興味のある方はぜひ寄り道をしていってください。
■台陽公司瑞芳事務所(九イ分派出所向かい) TEL(02)2497-2071
江さんは月・水・金(9:00-12:00、13:00-17:00)には事務所にいらっしゃるそうです。
林監督によれば、台陽公司脇にある、このレストランは人数もたくさん入れて、味もまずまずなのだとか。
旧道口、喜来園民宿から・・・
林監督が撮影の際に宿泊拠点にしていたのは汽車路沿いの「喜来園民宿」。ここから監督に撮影をしたお店などをご紹介していただくことに…。喜来園民宿の隣にあるレストランのおばちゃん。日本語は話せませんが、家庭風の料理は日本人の口にもあうかと。
昔からの酒屋。飾り棚の上のほうにひらがなで右から「おさけ」とあるのが読めますか?日本時代の名残がここにも。
眺めのいい喫茶店「
古窗」。かつてここはトロッコの発着駅だったとのこと。芸術家たちが集まるシーンは、このお店で撮影されました。
基山路の商店街はこの日も観光客でにぎわっていましたが、このお店の7割以上は、外から来た人たちが場所を借りて営業している店が多いようです。でも、芋のお餅を出すお店や、雑貨屋など、今も健在なお店も少ないながら残っています。映画の中では、基山路と階段の交差する近辺に住む人たちが多かったようです。小学校が近いことと、江さんの同級生の家が点在しているからかもしれません。
昔は、九イ分一の目抜き通りだっただけに、この交差点のお店は、それはそれは繁盛したそうです。が、今では昔ながらのお店は楊さん夫婦の雑貨屋だけになってしまいました。雑然とお菓子やカサが並べられたお店で、チンマリとかわいいおばあさんが座っているのですぐわかります。ここの主人の楊さんは、江さんの同級生でこれまた日本語がとても流暢。「もう、この店は時代遅れだから、たたもうかと思っている」とボソッと話していましたが、お元気の間はそのままで雑貨屋をやっていてもらいたい、そうお願いしてしまいました。角には楊さん息子が経営する民宿「山海樓」もあるので、こちらに泊まれば、ゆっくり楊さんの昔話を聞くチャンスがありますよ。
林監督によれば、江さんのもうひとりの同級生で「ゲタ屋の林さん」の通称で呼ばれている名物おじさんはどうしてるかな、というので訪ねていったのですが、体調優れず、病院で治療中とのことでした。残念。
■古い建築を上手に再建 九イ分茶房
映画のオープニング。「九イ分茶房」で静かに台湾茶をたてる江さんのカットが映し出されます。というのも、江さんは一時期、この一角に住んでいたことがある、という思い出もふくめて、今は茶芸館になったこの古い建築物内で撮影が行われたようです。
「九イ分茶房」は九イ分に魅せられた画家の洪さんが作ったお店で、下には展示館、陶芸工房、喫茶店なども併設しています。林監督は「この女の子に出演してもらったんだ」というので、お店の看板娘・高小姐にお茶を淹れてもらいました。日本語も上手なので、ぜひゆっくりしていってください。
映画の中で江さんの3つ年下、と紹介されて登場するのが、茶芸館「阿妹茶酒館」の許さん。この通りはまさにかつては「花町」、といってよい繁華街。女郎屋も多かったということで、はるばる台北などから訪れる客もいたのだとか。この許さんも日本語がとても上手で、映画の中では「長崎は今日も雨だった」などを熱唱していましたっけ。とてもお茶目なおじいさまなので、昼間、帳場でみかけたら、日本語で挨拶してみてください。
胡達華さんが作る空き缶切絵の写真集を見つけました。映画にも登場しますが、本人は九イ分にいないことが多いようです。
さて、映画をめぐる旅、いかがだったでしょうか。一青窈のお姉さん一青妙さんのナレーション(やはり姉妹、声もよく似ています)にも癒されるはずです。「風を聴く」を見て九イ分旅情を盛り上げから、ぜひその目で、歴史の証人に会いに来てください!
「風を聴く―台湾九イ分物語」 上映情報はこちらから
以上、台北ナビでした。
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2007-09-17