6代目で日本語がバッチリの若旦那とお茶談義。台湾文山茶の発祥地「深坑」のルーツとは?
こんにちは、台北ナビです。 豆腐の町として知られる「深坑」にある儒昌茶行。水が清らかで、おいしいお豆腐で有名な街。この近辺でお茶が生産されていることは知っていたナビですが「どんなお店なのかなぁ」と何の前知識もないお店への取材に、ちょっと緊張気味。
完璧な日本語に参りました
台湾茶業組合からの口利きで紹介してもらって訪ねてみた「儒昌茶行」ですが、前がバス停になっていて、割と人通りが多いこと以外は、ほかの茶葉店となんの変りもない外観。組合からの紹介でなければ、たぶん通り過ぎてしまいそうなお店です。
が、お店で待っていた若旦那、王詠政さんと話しているうちに、この人、日本語が完璧にできることが判明。しかも、沖縄に語学留学、その後、静岡県の茶業研究所で緑茶の生産・加工の技術を研修するという、実に頼もしいキャリアの持ち主で、台湾の茶業界の次代を担う「若きプリンス」の風格をも、もっていたのでした。
まずは「深坑」茶の物語
「深坑は台湾茶栽培の発祥地だったんです」という王さんの話には、ビックリしました。今はロープウェーのある猫空などの茶どころが観光地として脚光をあびていますが、もとはといえば、19世紀半ば、この深坑と南港の山間部に、中国の安渓からの移民農家が入り、茶の栽培を始め、その後、茶畑は猫空や坪林へと広がったとのこと。その後、日本統治時代にこの地域が台北州文山郡と称されていたため、このエリアで採れる茶が「文山包種茶」と呼ばれるようになったのです。
「今、深坑老街と呼ばれているエリアは昔、茶葉の積降場で、ここで加工された茶が、水運で迪化街まで運ばれていたんです」なるほど、確かに、ここに流れる景美渓は淡水河に合流し、萬華を経由して迪化街までつながっています。ここは水運の町として栄えた町だったのです。
深坑には数軒の茶荘があるほか、茶油の製造工場もありました。
輸出用は残留農薬検査もしっかりと
もともと茶農家だった王さん一家は、まじめな農園経営が認められ、1950年に所有する茶園が師範茶園に選ばれ、生産技術の改良などに努めた結果、1960年に「全国模範農民」となったことで商売も軌道に乗り、文山包種茶、燻花包種茶(ジャスミン茶)、武夷老茶などの卸し売高を伸ばしていったそうです。その伝統が今も生きているのか、今も品質管理にはとても気を使っていて、輸出用の茶葉は必ずあらかじめ残留農薬検査をしている、ということです。
「かつては猫空産の鉄観音を買っている時代もあったけど、あそこは畑も少なく、産量も減少したので、今は反対に猫空に売っています」という裏話も聞かせてくれました。
「これまで卸売りがメインで、日本にも輸出していましたが、私の父の代になってからは小売りも始めて、日本茶の輸入もやっているんです」ということで、お茶だけでなく、日本の茶缶なども扱っていて、棚にはサンプルなのでしょうか、いろんな種類の茶缶が並べられていました。
日本市場向けに、こんな台湾茶ギフトを作ったことがあるそうです。
というわけで、今も主に文山茶の卸をしている店なので、品質と価格のバランスは間違いなし。さらに、輸出茶についての話をよくよく聞いてみると、日本輸出向けの茶葉は、コストの関係で、どうしても2か所以上の茶葉のブレンドを余儀なくされる、ということでしたが、国内販売に関してはめったにブレンドしない、ということなので、現地販売の茶葉は日本でも手に入りにくいお買い得品、ということになりますね。
文山茶はのど越しがよい茶ではあるのですが、高山烏龍茶などと違って、葉が丸まっていないので「かさばる」というのが難点。というわけで、店内で扱っているのは文山茶が中心ですが、「毎年日本に10トン以上輸出する」という輸出用は烏龍茶が7割がた、とのこと。その烏龍も、中部の南投から手頃なおいしい茶葉を仕入れている一方で、いわゆる「梨山」「阿里山」などの最高級茶は、それほど扱っていません。輸出業者だけに、それがナビには「高い品物をあえて押し付けない」姿勢に見え、極めて模範的なお店ではないかと思った次第です。
ちなみに、こちらで扱う高級茶は「東方美人」。この深坑からさらに山に入った「石碇」という場所が主な栽培エリアですが、王さんによれば「とても繊細で飲み口がよい」とのこと。東方美人の産地として有名な新竹県「北埔」などは、やや暑い気候のため、濃い口でストロングな飲み口なのだといいます。同じ東方美人でもずいぶん違うものなのですね。
さらに、この若旦那、静岡で修業した証として「インストラクター」の資格を持っています。日本でこの資格を持つ台湾人は彼一人、ということで、日本茶も台湾茶も知るオールマイティーな茶師です。あどけなさの残る若者なのに、見上げたものです。すでに6代目として父親の片腕になっていることは、彼が台湾の茶業界のことにも家内の事業にも精通していることでもよく分かります。
日本茶のポスターが店内に貼ってあったりして、日本との深い交流を感じます。
ちなみに、王詠政さんのお父さんで、5代目の王銘?さんは、茶葉品評官能鑑定師の資格をもって、先代以上に積極的に国際市場にのりだし、日本の同業者との共同出資で1995年には中国淅江省に緑茶生産工場を設立。アメリカや日本へ緑茶の輸出をしているそうです。一代ごとにお茶一筋でスキルアップしていく家族企業の今後に期待したいところです。
最後に一言
この店は、台北市内からは20分ほど足を延ばすことになるので「深坑で有名な豆腐料理を食べに行くついでに」くらいのつもりで訪れることをおすすめ。王さんをインストラクターがわりに、台湾茶の知識を深めるいいチャンスにしたいですね。ただ、この若旦那、日本に出張することも度々なので、彼に案内してもらいたい人は、まずは電話で確認をお忘れなく。
分かりやすいな、と思ったのは、儒昌茶行がバス停の真ん前だということ。本来のバス停はお店の10mほど先なのですが、コンビニ「サークルK」の隣で便利なので、自然とバスがこのお店の真ん前に停車するようになったのだそうです。バスの運転手も「儒昌茶行」を知っているので、バスで来る方は店名を提示して「変電所」(バス停の名称)で降ろしてもらいましょう。
それでは、台北ナビ「お茶の旅レポート」でした。
文山包種茶
軽度発酵茶。産地は台湾北部文山地区。茶葉の形は長い濃緑色、優雅な香りとまろやかな味が特徴
高山烏龍茶
台湾中部の標高1000m以上の茶園で育てられた茶の総称。味は濃く、香りがより高いのが特徴
凍頂烏龍茶
軽度発酵茶。産地は台湾中部。茶葉は玉のような形状。水色は明るい黄金色。甘醇な味と香りが特徴
東方美人茶
重度発酵茶。産地は台湾北部。新芽だけを摘んで焙製。新芽には白い毛のようなものがついてることから白毫烏龍とも呼ばれる。赤く澄んだ水色で、蜂蜜のような甘い香りが特徴
鉄観音茶
中度発酵茶。産地は台湾北部。茶葉は丸く、水色は琥珀色。火入れの時間が長いため味が濃厚
ジャスミン茶
上記の包種茶にジャスミンの花の香りを移した、香り高い茶
日本語のパンフもあります
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お茶キャンディーも。お茶入りミルクキャンディーは限定販売とのこと。
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