パイワン族の繊細な刺繍が施された小物の数々に、陳ママのお話を聞いてみたくなります
こんにちは、台北ナビです。パイワン(排湾)族が多く住む台東県の太麻里に台湾工芸家、陳媽媽こと陳利友妹さん(以下、陳ママ)の工房兼ご自宅がありました。日本語を話される陳ママは、日本人ファンも多いのです。2017年の今年74歳の陳ママはパイワン族で、パイワン刺繍の国宝級の方なのです。陳ママが仕上げる作品は小さなものから目を見張るほどの大作まで多種。現在はオーダーメイドを中心に制作されていて、通常土日はお休みし、平日は1階の大きな窓に面した工房で作業中。お客様がいらしたら、中央の部屋でお話ししたりの生活を送っています。工房は台鉄「太麻里」駅からも歩いて10分くらいのところなので、観光客にも便利だと言えます。
台東県太麻里郷で生まれ育った陳ママは、幼いころから母親が刺繍をする姿を見て過ごし、小学2年生のころから母親の手伝いをし始めたそうです。本格的に始めたのが16歳の時、それからかれこれ58年。陳ママの刺繍は途切れることなくさし継がれてきました。今では1年ほどかけてじっくりと取り組むオーダーメイドの商品もあるそうです。→制作途中のそのベストは、写真に撮らせてもらえませんでしたが、まさに芸術品と言えるもので、あと半年はかけたいとのことでした。
パイワン族の刺繍は原住民の中でも緻密かつ派手なことでも知られています。プユマ族の刺繍もきれいですが、両者の違いは色合いかなとナビは思います。プユマがライトブルーやピンクなど明るい色を多く使用するのに対し、パイワン族の色合いは原色ほかブラウンやカーキ、ベージュなどの渋めの色も多く、民族衣装は黒がベースなので、全体的に重厚な豪華さに仕上がります。
彼らの刺繍の歴史をさかのぼると、刺繍芸術は貴族階級制度で生れた工芸品で、オランダ時代には糸の染物が広まり、日本時代にはさらに色が増えたそうな。聞けば陳ママは母親に必ず小米(粟)などのパイワン族が口にする大地からの恵みは入れなきゃいけないと教わったそうで、植物に近い色は必ず組み込むそうです。
パイワン族の衣装
パイワン族は厳格な階級制度がある民族で、頭目(mamazangilan)をトップに、貴族、勇士、平民の4階級があります。階級によって刺繍される図柄や模様は異なり、青銅刀や陶壺、とんぼ玉などは貴族の象徴で、祖先代々から伝わる宝物でもあります。今の時代はそんなことはないので、誰でも貴族の服を着ていいのよ、と陳ママは話していました。
毎年の豊年祭と結婚式の時、パイワン族は伝統的な衣装を身につけますが、各自が身にまとった衣類の刺繍柄や模様から、パイワン族独自の階級制度や文化的な要素を知ることができます。
パイワン族の風習では、母親が半年以上をかけて娘が結婚式に身に着ける服を作ります。服装だけでなく、手袋や足包み布、帽子、アクセサリーまで揃えなければなりません。ほぼすべてに細かな刺繍が入っているので、この作業は大変なものになります。が、実はパイワンの女性は皆裁縫が得意、とは限らないそうなので、陳ママは何人もの伝統衣装の制作を手伝ってきたそうです。
実際に着てみます
工房には結婚式やお祭りの時に着る衣装が多数かかっています。陳ママのお孫さん(ご長男の息子さん)がお婆ちゃんに呼ばれて工房に入ってきました。ナビたちにお祭りの時の衣装を見せてくれるのに、モデルとして来てくれたのです。今年中1になったばかりの陳韋中くん。陸上をやっているそうで背が高く、お父さんは彫刻家です。とても素直ないい子だったので、陳ママ自慢のお孫さんなんだろうなあというのが伝わってきました。
勇士のバッグ。陶壺と百步蛇(ヒャッポタ)の図案
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勇士になった韋中くんとおばあちゃんの陳ママ
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女の子が成人式を迎え、もう男の子と付き合ってもいいよというときに母親が娘に渡すバッグ
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中にポケットも2か所ありました
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工房のきっかけ
工房の始まりは?と伺うと、陳ママはずっといろんな人に頼まれて刺繍をさしていたのですが、1980年代、ポケベルが流行った時期に布袋を作ったら、間に合わないほどの忙しさとなり、その後帽子やバッグを作り始め、商標も申請したそうです。
刺繍の図案は、昔から今までずっとパイワン族の象徴として大切にしている祖霊、太陽、百歩蛇、陶壺、白百合、豊年祭などです。7、8月の小米(粟)の収穫の際、パイワン族は5日間にわたって「豊年祭」を行います。神に感謝をささげ、1年の豊作を祈るこの祭りでは、様々な儀式が執り行われます。祖霊をお迎えし、悪霊を払い、善霊を送る…儀式の進行時には、パイワン族が円になって踊ります。踊りは祭祖舞、祈福舞、豊年舞、農耕舞と次々と続けられていきます。
陳ママは、「第10回工藝之夢主題獎」の編織刺繍作品〈迎神‧祭祖‧慶豊年の図柄〉で賞を獲得しました。が、表彰はこの一回だけではありません。工房の壁には数えきれないほどの感謝状や賞状がかかっていました。
また、工房内には、すぐ近くに住むとんば玉アーティストの次男の作品もたくさんありました。今では次男の息子さんもとんぼ玉デザインの工房兼カフェをオープン。ナビたちはこの後そちらへも寄ってきます!
以上、台北ナビでした。