台湾のエンターテインメントを語る上で外すことのできない「霹靂布袋戲」の歴史と魅力をお届けします!
こんにちは、台北ナビです。今日は台湾文化を語る上で外すことのできない人形劇「布袋戲」を手がける企業を取材するため、雲林縣までやってきました!
「布袋戲」というのは、もともと17世紀頃に中国大陸から台湾に伝わったとされる人形劇です。人形が布製で、袋状のものに似ていることから、「布袋戲」と呼ばれるようになったといわれています。演目としては三国志など日本でも知られる中国の物語からオリジナル脚本まで幅広く、寺院などで神様に捧げる出し物として演じられる布袋戲は「外台戲」と呼ばれ、いまでも野外ステージで公演が行われています。
今回ナビがお邪魔した「霹靂國際多媒體股份有限公司」(以下、霹靂)の本社がある虎尾鎮は雲林の中央部に位置しています。雲林は布袋戲のふるさとと言われ、「布袋戲館」という博物館も作られるなど布袋戲との縁が深い土地なんです。
霹靂が手がける布袋戲は「霹靂布袋戲」と固有名詞で呼ばれ、伝統的なスタイルとはかなり違っています。一番の違いはライブではなく、映像作品であるということ。台湾でテレビ布袋戲を制作し、新しい布袋戲のジャンルを切り開いた会社なんです!
霹靂布袋戲とは?普通の布袋戲とどう違うの?
高鐵「雲林」駅から車で約10分、いざ本社スタジオへ!
というわけで台湾高速鉄道の雲林駅から霹靂の送迎車(専用車両!すごい!)で撮影スタジオのある本社へ。
唯一の日本人スタッフでプロデューサーの西本有里さんと、「霹靂月刊」副編集長の武耿弘さんが、さっそく映写室と展示室に案内してくれました。
歴史的な作品群のポスター
霹靂の特徴は布袋戲を映像化したことだというのはさきほど書きましたが、最初から映像を作っていたわけではなく、もとは伝統的な布袋戲の劇団でした。
3代目黃俊雄さんの時、テレビの普及に合わせて初めてのテレビ布袋戲「雲州大儒侠史艶文」を制作。これがなんと視聴率97%を叩き出すお化け番組となり、社会現象となったそうです。
80年代にはビデオ市場に参入。3代目の黃強華さん、黃文擇さん兄弟が協力し、脚本を兄の強華さん、セリフ(布袋戲はト書きもセリフも一人で演技を担当)を弟の文擇さんが担当して新しいシリーズを制作します。
彼らが生み出したビデオ作品「霹靂布袋戲」がまたまた爆発的ヒットを飛ばし、國際多媒體股份有限公司に成長して、現在に至るというわけなのです。
周辺グッズの展示エリアへもお邪魔しました
いまでは台湾のケーブルテレビに霹靂台灣という専用チャンネルを持ち、毎週金曜日にはコンビニでDVDを発売(毎週2枚発売!)。
これまでに70シリーズ、2200話以上の「霹靂布袋戲」が世に送り出されています。近年はゲーム業界など異業種とのコラボレーションも盛んです。
キャラクターたちが待つ展示室にお邪魔しま~す
つづいて展示室へ。ここにはこれまでシリーズに登場してきた錚々たる役者陣、戲偶(木偶)と呼ばれる人形たちが展示されていました。
伝統的な布袋戲の人形は片手で動かせる大きさですが、霹靂布袋戲の人形は1メートル弱とかなり大きめ。映像化するにあたり細部も重要になってきて、だんだんとサイズが大きくなっていったそうです。しかもどのキャラクターも美男美女ばかり♥
アップで撮影してもこの美しさ。アイドル顔負けのビジュアルです
面白いことに、キャラクターたちは歳を経るごとにだんだん若く美しくなっていったそうなんです。視聴者のニーズに応え、いまではアップにも耐えられる美形ばかりに。
しかも女性キャラは露出度が高め。これも伝統布袋戲にはなかった造形美で、霹靂人気の重要なポイントです。
ストーリー展開と魅力的なキャラに視聴者は釘付け!
人気の悪役・魔王子。皮肉なセリフ回しにファンが多かったとか
脚本は完全オリジナルで、基本は台湾人の大好きな武侠物。英雄たちが力を合わせて紛争をおさめていきます。そこに人間模様や恋愛が絡んで、毎回続きが気になる展開に。
勧善懲悪かと思いきや、悪役にも意外なバックグラウンドがあったりと、娯楽性に飛んでいます。
こちらの銀鍠朱武も悪役ながら愛妻家という設定。魔界での仕事と家庭との両立に葛藤する姿に共感が集まったそうです
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悪役の女性キャラクターもセクシー!
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武耿弘さん曰く、台湾人にとって霹靂布袋戲は人気漫画のような位置づけなんだとか。
「コスプレイベントでも、霹靂のキャラクターに扮する人が多いんですよ」。
なるほど~。悟空の前にピッコロ大魔王が現れて、ハラハラドキドキしながら翌週を待つのと同じですね。「どうなる素還真!ぜってぇ見てくれよな!」のような感じでしょうか。人気キャラには個々のファンクラブもあるそうです。
近くで見ると衣装も武器もものすごく精巧。デザインも実に凝っています。
ナビはこの後非公開の小道具室にも連れて行っていただきましたが、部屋からあふれるほどの小道具を数人のスタッフさんで作っていて、驚かされました。デザインから制作まですべて小道具係さんが担当し、キャラクターからイメージを膨らませてそれぞれに合った武器や持ち物を作り出すそうです。
つづいて「人形造形制作室」へ。ここも非公開なので写真はないのですが、一言で言うと我々一般人がイメージするメイク室そのものでした。人形は木製、顔は彫刻されたものだと聞いて、ナビはもっと工場っぽい様子を想像していたのですが、人形の造形自体は専属の人形彫刻師と呼ばれる職人さんによって作られているそうです。造形制作室では人形師さんたちが人形に髪型やメイクをして、準備が整ったキャラクターから出入口付近でスタンバイしています。
実際のメイク室と違うのは、メイク直しならぬ修繕が必要な人形が、たくさん置かれていたこと。戦闘シーンの撮影では人形が大きく損傷することもあるので、メインキャラクターともなるとアップ撮影用、引き絵の撮影用、そしてスタント用と3体の人形が準備されるんだそうです。実際に見てみると、アップ用と引き絵用でも表情に少し違いがありました。
布袋戲に命を吹き込む操演師の大ベテランが登場!
丁さんが手にするだけで、素還真が生き生きと動き出します
さて、人形はいったいどうやって操作しているのか??この日ナビは40年以上人形操演師をなさっているという丁振清(貓叔)さんにお会いすることができました。
ナビがキンチョーしつつ待っていると、霹靂きっての花形スター・素還真を手にした丁さんが現れました。操演師ってすごい!丁さんが持っているだけで人形に命が吹き込まれたかのようです。
実際にナビも操作(演技までいかない)させてもらいました。まずは人形の体に右手を入れ、人差し指、中指で首を支え、薬指と小指で人形の右腕を操作します。人形の左腕からは操作するためのバーがついているので、左手でこれを動かします。両手はふさがり、右手を常に高々と掲げた状態。ナビが最初に思ったこと、それは「・・・重い!!!」
人形は衣装や武器の重みも加えると一体3~5キロになるそう。軟弱なナビの腕は1分もしないうちにプルプル震えてきました。も、持っていられない・・・。指にかかる首の重さも相当なものです。しかも霹靂布袋戲の人形はセリフに合わせて口を動かすことができるので、首を支えながら、指で人形の口を動かさなければならないんです。ゆ、指がつってしまう~~!
丁さんは霹靂最初の映画作品となる「聖石傳說」で、操演はもちろんキャラクターデザインも手がけたそうです!
丁さんがおっしゃるには日々筋トレを欠かさず、動きを自然にするためには右腕をなるべく固定してぐらつかないようにするのが大切なんだそうです。プロの操演師は一通りどんな役でも演じられるようになって一人前。一流の人はキャラクターの個性に合わせて柔軟な動き、力強い動きと自在に操り、人形の感情まで表現できるようになります。
丁さんほどのベテランになると、人形の感情と自分の感情が完全に一致してしまうのだとか。「人形が泣くシーンでは、自分も泣きながら演技をしていることがありますよ」。キャラたちが人の心を惹きつけてやまないのも納得です。
霹靂布袋戲の草創期メンバーである丁さんは、人形を動かすだけでなく、造形から美術までなんでもこなします。
「最初はスタッフも40人くらいしかいかなったんです。最初の映画でセットやキャラクターをデザインしたのも私だし、人形に手の動きをつけるために、特別な装置を設計したのも私です」。
丁さんは4代目の黃兄弟とともに、霹靂の愛すべきキャラクターを生み出した張本人であり、人形造形を進化させてきた立役者でもあったのでした。
台湾語が行き交うスタジオ。天の声の正体は誰・・・?
大ベテランに貴重なお話を伺ったあとは、いままさに撮影中だというスタジオへ。人形たちが動き回るセットは、かなり高い舞台になっていました。操演師の方たちは、その舞台の前や舞台の間で人形を動かします。舞台は布袋戲用語で「半山」と呼ぶそうです。
布袋戲はセリフがすべて台湾土着の台湾語なので、スタッフさんたちも主に台湾語でやりとりしています。武耿弘さんにうかがってビックリしたのですが、霹靂布袋戲はセリフの収録が先に行われ、セリフに合わせて動きの撮影をするそうです。
スタッフさんたちはモニターを確認しながら撮影を進めていますが、何やらスタジオに流れるマイク声の指示に従っている様子。この声の主はどこ?え?天の声?
キョロキョロしているナビに「この声の主は監督(導播)ですよ。監督は別室でモニターを確認しながら、マイクでスタジオに指示を送るんです」と西本さん。えー?監督は現場にいないんですか?「しかも監督は監督助手とその部屋で撮影と同時に編集も行ってしまうんです」。えーーーー?編集って、撮影がすべて終了してから時間をかけてするんじゃないんですか!!!
なんと監督の別室はモニタールームになっていて、その場でアシスタントさんと映像を確認。いらない場面はどんどん削って、撮影しながら映像をつなげていってしまうんだそうです!ここにCGや音声など映像上の効果をつけて、いよいよお茶の間にやってくる作品となります。
今年は素還真の30周年記念イベントも開催されます!
初めての霹靂訪問は、本当に驚きの連続でした。スタッフさんたちの発想力、実行力、表現力には脱帽!台湾に興味のある方ならば絶対に必見のエンターテイメントだと思います。お気に入りのキャラクターが見つかったらハマること間違いなしですよ!
今年はちょうど素還真が誕生して30周年のメモリアルイヤーで、台北市内でも生誕30周年を祝うイベントが予定されています。ライブパフォーマンスもあり、まったく新しい造形の素還真も登場するそうですよ!この機会にぜひ霹靂スターの力強く美しい魅力を確かめてみてください。
蓮華誕‧三十還真慶典日時:2018年4月29日
時間:15:00〜16:30
場所:華山文創 Legacy 傳音樂展演空間
イベント「蓮華誕‧三十還真慶典」公式サイト 以上、素還真ファンクラブをチェックし始めている台北ナビがお届けしました。