台湾南部にも国家芸術センターが誕生!芸術を身近に感じられる市民の憩いの場です
台北の「國家兩廳院(國家戲劇院&國家音樂廳)」、台中の「臺中國家歌劇院」もナショナルパフォーマンスアートセンターと位置づけられています。今後これらとコラボすることも計画中だそう!
こんにちは、台北ナビです。
2018年10月に正式オープンする「衛武營國家藝術文化中心(衛武営国家芸術文化センター)」は「國家表演藝術中心」の管轄にあり、台湾の行政院十大建設の1つの一環として開発が進められました。なんと100億元もの予算をつぎ込んでいるんですよ。
オープンに先立ち海外メディア、ブロガーを集めてお披露目会が開かれました。ナビもお呼ばれしましたので、ひと足早く皆様にご紹介したいと思います!
「衛武營」の由来を知るには歴史を知ろう!
建物の紹介の前に、ナビがどうしても気になっていたことを解明しておきたいと思います。それは、聞きなれない「衛武営」というかなりイカツイ地名。アートな施設の名前として使われているのはちょっと違和感があったのですが、この地の歴史を聞いてなるほど~と思いました。
19世紀は沼地でしたが、日本統治時代は軍事基地として使われ、鳳山倉庫と呼ばれていました。第二次世界大戦終戦後は憲兵の訓練所として使われ、ここで兵役についた人も大勢いたそうです。その頃には五塊厝營區と呼ばれていましたが、その後衛武營區と呼ばれるようになりました。つまり、地名だったのですね~。
1979年の軍事会議で今後は軍事用途としては使用しないということが決定され、基地内のものは旗山や燕巢へと移転させました。
その後2003年にこの場所を公園として整備することを決定し、その年の7月にこの「衛武營國家藝術文化中心」を建築することを決めたのです。
桁違いの規模
地図で公園とホールの大きさを確認!
MRT「衛武營」駅を出るとすぐにある「衛武營都會公園」。47ヘクタールもの大きさを誇る市民憩いの場ですが、その横に9.9ヘクタールという大きさの芸術文化センター「衛武營國家藝術文化中心」があります。
このホールは歌劇院、音樂廳、戲劇院、表演廳、戸外劇場、榕樹廣場が1つの屋根で繋がっています。このような珍しいデザインにしたのには理由があります。
衛武營都會公園の先に高雄85ビル
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公園と繋がっています
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どんな人も自由に出入りが可能な「榕樹廣場(ガジュマル広場)」
風が吹き込んできて気持ちいい「榕樹廣場(ガジュマルの広場)」
この建物を設計したオランダの建築士・侯班(Francine Houben)さんはここを設計するために44回も台湾を訪れました。その時気づいたのは、台湾にはガジュマルの木が多いという点。ガジュマルの木の下でのんびりと休憩したり、みんなでダンスを楽しんだり、自然と人が集まって時間を過ごしていますよね。ここも「気軽にたくさんの人が集まってきて欲しい」「芸術は難しいと思い込んで距離を取ってしまいがちだけど、ここは生活に溶け込むような存在であって欲しい」という思いが込められています。
1つのホールが1本のガジュマルの木。ガジュマルの葉が横へ大きく育ち、横の木(ホール)と繋がっているというわけなんです。
建物内に見えるスチールはガジュマルの枝をイメージしていますよ~。そして最上階である3階は共有スペースとなりカフェなどが入る予定です
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木漏れ日のようでしょ??
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そのためホールとホールを結ぶ半屋外の場所を「榕樹廣場(ガジュマルの広場)」と名づけ、ここでも簡単なイベントを行うことができるようにしています。イベントがない時は、ダンスの練習や休憩など、自由に使うことができます。
芸術を楽しむところという場所という以外にも、市民の憩いの場としても積極的に使ってもらいたいそうですよ。
高雄らしさも大切に!
オランダと高雄は造船業が盛んだという共通点があります。また、高雄は台湾一の製鉄会社「中國鋼鐵」があり、製鉄業も有名です。その高雄らしい要素も表現するため、建物の壁はまるで貨物船のような作りになっています。
これを表現するために鋼鉄を2300枚強も使って作り上げたというから、気合の入り方が違います。芸術的センスがナビは未完成なのかとばかり思ったのですが……。
貨物船のように見えませんか??
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この数字は喫水線を表しています。台湾の喫水線は基隆の海面を水位基準点なんだそうですよ
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侯班さんはもうひとつ気づきました。高雄の人々は17、18時になると外に出てくるということに。
高雄は暑いから仕方ないですよね。そのため、UFOのようなライトを13個取り付け、毎日18時に点灯します。このライト、17通りに変化するので、まるでクラブフロアになるそうです。
高雄の夜、ここをフラっと訪れるのも良さそうですよね。
いつか中へ入ってみたい「歌劇院(オペラハウス)」「戲劇院(プレイハウス)」
画像提供:衛武營國家藝術文化中心
2,260席のある歌劇院はイタリア式のデザインを採用。歌劇、大型の劇、ダンスなど違った形式の公演が可能です。というのも、舞台の機械設備は完全に自動化し、台湾一のメーンフレームも使っているからなんだとか。また、歌劇院には黒い柱があるのですが、この内部はメロンの網状のような構造になっています。2万トン強もの重さになり、エッフェル塔3基に匹敵するほどの鉄量だそうですよ~!
中を見られるのを楽しみにしていましたが、残念ながらナビが訪れた時はまだ工事中でした。そして1254席の戲劇院は京劇や歌仔戲を楽しめますが、これも今回は見られませんでした。
戲劇院(プレイハウス)
画像提供:衛武營國家藝術文化中心
パイプオルガンはドイツ・クレイス製
全座席2012席の音樂廳(コンサートホール)は、ヴィンヤード(ぶどう畑)形式を採用しており、客席が段々畑のようになっています。演者が真ん中に、それを取り囲むように客席があるのですね。
世界で初めて取り入れたのはドイツのベルリン・フィルハーモニーで、日本ではサントリーホールがヴィンヤード形式です。
これはステージ上にあったコンピューターで制御できる演奏台。普通はパイプオルガン1つに1つですが、それら以外にもうひとつとがある演奏台までありました!
見学させてもらった時、運よくちょうどパイプオルガンのテスト中でした。
ドアを開けると響き渡る力強さに圧倒されました!さすがアジアで最も大きなパイプオルガンなだけあります。なんと9085本のパイプを使っているそうなのですが、パイプオルガンはひとつとして同じものはないそうです。というのも、パイプオルガンはホールの構造にあわせて作るからなのだとか。
そして真ん中にメインのパイプオルガン、横に小型の反響用パイプオルガンがあります。
座席表
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吊下反射板はコンピューターで制御可能。演奏者の数によって、最も適した天井の高さにできます!
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メインのものは現代的な音
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反響用のオルガンはバロック風の音を奏でるとか
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127個のストップ。ストップにはひとつずつ文字が書かれていました
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5層の鍵盤
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屋外劇場
516席のある屋外劇場はその名の通り、室外にある劇場です。芝生が舞台になることもあるし、逆に客席が舞台になることもあるのだそう。例えばライティングショーなら、観客は芝生に座りながら客席に映し出される光を楽しむといったこともできるんです。しかも、公園中央の芝生エリアも使うと3万人も収容できるんだそうです。規模がすごすぎ~!
また、客席は階段の役割を果たしており、3階に作られる予定のカフェなどへはここからも移動できるようになっているのだとか。
ここで屋根部分にも注目してみましょう!衛武營國家藝術文化中心を建設する際、最も難しかったのがこの屋根。曲面をアルミ合金で作り出すのが困難を極めたといいます。なんでも、海外から特別な金属成形機を取り寄せ、1枚ずつコンピューターで計算しながらこの波のような曲面を作ったのだといいます。その数6000枚以上。屋根をよ~く見るといくつもの線が走っているように見えるのはそのためなんです。
しかしなぜアルミ合金にこだわったのでしょう?それはアルミには防音、遮熱効果が高いという特長があるからです。屋根と天井までの1メートルあるということもあり、もし外で工事を行っていたとしてもホール内には全く影響を及ぼさないのです。
静寂のなか発せられる音に包み込まれる「演劇廳(リサイタルホール)」
演劇廳という名の通り演劇に適していますが、小規模のコンサート会場としても使用できます
434席の演劇廳(リサイタルホール)は衛武營國家藝術文化中心の中で最も小さく、シューボックス(靴箱)型のホールです。ヴィンヤード型が出現する前の19世紀頃はこのシューボックス型のホールが主流でした。シューボックス型のホールは特に音響性能が良いと言われているそうで、ここでも並々ならぬこだわりがあり、声楽の先生が音響を何度も確認しながら設計したといいます。
設計士がシャネルが好きだということで、何となくシャネルのバッグのようになっているのがお茶目!
まずは壁を見てみます。両端にある壁面には、硬くエコー効果の高いGRG(ガラスファイバー強化石膏)を使用、後ろの壁は音を吸収しやすい柔らかい素材を使っています。同じように見えるのに、素材が違うのですね!
その上にはいくつもの三角形に切り抜かれた様になっています。その中にあるのが移動吸音簾(直訳すると移動式吸音カーテン)。黒いのが見えているときはカーテンを閉じている状態なんだそう。その上にスタッフのキャットウォークがあるという具合です。
ステージ上にある縦長のブロックは旋轉木簾。その名の通り回転させることができ、これにより吸音効果を変更することができます。これは音樂廳にもありますよ!
ルイ・ヴィトンを意識したかのような模様
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180°回転する舞台上の旋轉木簾
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椅子にもこだわりがあります。椅子の裏には小さな穴が開いていて、これは吸音効果を狙っています。人間も吸音効果があるそうで、本番はお客さんがいるけれど、リハーサルはいない。そして観客がどれくらい入るかも毎回違います。だから観客がいてもいなくても、少なくても多くても吸音効果が一定に保たれるようにこうなっているのです。
また、どの座席の下にも丸い穴のようなものがついていて、ここから冷たい空気が流れてきます!つまり、床下冷房ですね。というのも、冷房をつけると音がして邪魔をしてしまうから。どの席も同じ温度に保てるという利点もあります。
そして階段、床ともに木材を使用しています。何となく絨毯の方が高級な感じがしていいんじゃないの?とド素人ナビは思ってしまうのですが、絨毯は音を吸収しすぎてしまうんだそうです。なるほど~!
アンゴラウールの椅子の裏にご注目!
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床式冷房は2メートルの高さまで涼しいそうですよ~!
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画像提供:衛武營國家藝術文化中心
最後に「衛武營國家藝術文化中心」はほかと違うところはどこですか?と質問してみました。
何度も強調していたのが、気軽にアートとふれあえる点。ハード面は前述したとおりですが、サーカスやダンスも見られるなどプログラムの豊富さも魅力です。そして今後は高雄に根付いているお店を中心にショップやレストランなども入る予定で、芸術を見に来るという目的以外にも「衛武營國家藝術文化中心」を訪れ、それをきっかけにしてアートに興味を持つ人が増えるかもしれませんよね!
以上、10月以降に遊びに来たらここで何か公演を鑑賞したいなぁと思った高雄好きのナビがお届けしました