台南のヨーロッパ!少年の夢がつまった博物館へ
こんにちは、台北ナビです。
緑あふれる広大な敷地に西洋建築の建物。台湾にいることをすっかり忘れてしまいそうになる「奇美博物館」にやってきました。この博物館は、合成樹脂や電子部品、食品メーカーなどを傘下に持つことで有名な「奇美実業」の創業者である許文龍氏が設立した台湾屈指の博物館です。西洋芸術、楽器、兵器、動物などを主に収蔵する巨大な博物館ですが、これでも展示されているのは全体の3分の1ほどで、他の作品は倉庫に眠っているというから驚きです!
見どころいっぱいの「奇美博物館」を、今回は広報担当の鍾佳欣さんと一緒に歩いて来ました。
博物館の歴史は少年の心に芽生えた夢から始まる
1992年に創設した「奇美博物館」ですが、創設者である許文龍氏は日本統治時代の生まれ。台南市の中心街に程近い「神農街」に住み、港公學校(現在の協進國小)に通っていました。公學校とは日本統治時代に台湾人の子弟が通っていた初等教育機関です。
当時の台南には、後の「台南州立教育博物館」があり、学校が終わると博物館か、養殖池へ行くのが許少年の日課だったそう。無料で見学することのできた博物館は、許少年にとって大変魅力的な場所であり、もし将来、文化事業に従事することがあるならば、まずは大衆向けの博物館を設立したい……そんな夢を抱かせる場所でもあったそうです。
資本金2万元、8坪の空間に従業員4人で創業した「奇美実業」ですが、一代で瞬く間に急成長し、1992年には、仁徳工業区に「奇美博物館」を設立し、許少年の夢は現実のものとなりました。現在の場所で移転リニューアルを迎えたのは、2015年のこと。
美術品は、多くの人に見てもらうことが大切だと言う許文龍氏の言葉通り、「奇美博物館」は、小さな子供からお年寄りまで、幅広い年齢の方が楽しめる博物館になっています。許文龍氏ご本人も、時間を見つけてはこの博物館をふらりと訪れるそうです。もしかすると、どこかですれ違うかもしれませんよ。
博物館インフォメーション
画像提供:奇美博物館
以前は見学するのには予約が必要でしたが、現在は不要となりました。2フロアの館内は、こんな風に分かれています。
1階 彫刻アベニュー、動物ホール、兵器ホール、ロダンホール、特別展ホール
2階 藝術ホール、楽器ホール
展示は常設展と、期間限定で定期的に展示内容が変わる特別展とがあります。特別展も合わせて鑑賞する場合は「常設展+特別展」のチケットを購入しましょう。チケット売り場では、120元にて音声ガイドの貸し出しも行っています。日本語もあるので、ぜひ利用してみてくださいね。また、インフォメーションでは、パスポートなどの身分証を提示するか、1000元のデポジットを支払えば、車いす、ベビーカー、充電コード、老眼鏡、ドライヤーを借りることができます。他にもお客様をおもてなしするためのサービスが、いろいろと充実しています。
それでは早速、入場改札を通って、展示会場へ。ここから先の写真撮影は禁止となりますのでご注意ください。(※今回は特別な許可を得て撮影しています。)
明るい陽ざしが差し込むこの通りは、古代ローマ時代から20世紀までの彫塑作品が並ぶ「彫刻アベニュー」。右手には動物ホール、左手には兵器ホールがあり、まっすぐ進むとロダンホールがあります。
世界中の動物の剥製や化石が並ぶ動物ホールは、特に子供たちに人気の展示です。旧館では、動物たちがかなりキツキツに展示されていた記憶があるのですが、新しい博物館となって広くなり、のびのびとしています。特に、アフリカ大陸のゾウやキリンは圧巻です!
ホッキョクグマがいちばん人気
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台湾黒熊や雲豹などが並ぶ台湾コーナー
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兵器ホール(1F)
お次は、世界各地の古代兵器を展示したホールへ。戦争をイメージさせる兵器をなぜ展示するのか……?と疑問を持ちましたが、兵器を見るのは博物館だけで充分!という、平和を愛する許文龍氏の考えによるものなんだそうです。 このホールは、ヨーロッパとヨーロッパ以外のグループに分けて展示が行われています。
まずは、ヨーロッパから。狩猟のための武器から、次第に戦争のための武器へ、そして時代とともに高度なものへと移り変わっていく様子がわかります。
クロスボウとクレインクイン
横に美しい装飾があるクロスボウは、貴族が使っていた狩猟道具だったそう
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戦争遊び
軍事学校の教官が生徒に軍事戦略をゲーム形式で教えている様子
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ヨーロッパで中世の終わり頃から流行した馬上槍試合。重い防具を身にまとって戦うのは、かなり過酷ですね。
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実際にヘルメットを身に着けて、重さや視界の狭さを体験できるコーナーもありました。
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画像提供:奇美博物館
今度は、ヨーロッパ以外の武器や防具が並ぶホールへ。こちらは、時代劇などでおなじみの日本の甲冑や日本刀の展示から始まります。中央に鎮座するのは、日本を代表する甲冑である「大鎧」。8代将軍の徳川吉宗は、鎌倉時代の大鎧を復活させ、それが当時大流行したそうです。ここに収蔵されているのは、良好な状態で保存されていた当時の物です。
チンギス・カンの時代の弓騎兵の様子
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木や亀の甲羅などを使ったアフリカの武器も
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ロダンホール(1F)
ロダンといえば「考える人」
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この作品を上から眺めることができるのはここだけかも……
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1階のつきあたりは、去年で没後100年を迎えたロダンのホールになっています。貧しい家庭で育ち、フランスのエコール・デ・ボザール(歴史ある高等美術学校)の試験に3度も落ちるという挫折を味わったロダン。イタリア旅行を機に彼の作風は、これまでの凹凸のない完璧なスタイルから、変化を強調するスタイルへと一変し、最も有名な近代彫刻家のひとりとなりました。このホールには、ロダンとその師、同輩や助手たちの4つのアトリエも再現されています。
師:ジャン=バティストカルポーのアトリエ
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助手:エミール=アントワーヌブールデルのアトリエ
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師:アルベール=エルネスト・カリエ・ベルーズのアトリエ
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そしてオーギュスト=ルネ・ロダンのアトリエ
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テセウスとケンタウロスの戦い
アントワーヌー=ルイ・バリー/1860年
ギリシャ神話に基づいた作品。ラピテース族の結婚式に招待されたテセウスが、酒に酔って暴れているケンタウロスと戦っている様子です。(棒を持っているのがテセウスで、首をつかまれ苦しそうにしているのがケンタウロス。)
第二次世界大戦によって壊されてしまったパリの「テセウスとケンタウロスの戦い」を複製するために、奇美博物館は、この像をパリ政府に貸し出したそう。役目を終え戻ってきた「テセウスとケンタウロスの戦い」は、博物館の正面玄関に設置されています。
芸術ホール(2F)
1階だけですでに充分満足してしまったナビですが、まだまだ続きます。今度は2階の芸術ホールへ。博物館のコレクションの中でも、西洋芸術はかなりのウエイトを置いているホールです。それには台湾の、特に地方の高齢農家など、西洋芸術が遠い存在である人々にも、気軽に鑑賞してほしいという許文龍氏の願いが込められています。
ここでは、13世紀~20世紀の作品を、時代の流れに沿って展示しています。部屋の壁の色は、グレー→ピンク→ブルー→レッド→グリーン→ライトグリーンへと変化し、その時代ごとの作品の特徴から、文化や思想、市民の暮らしなども垣間見えてきました。ナビが気になった作品をいくつかご紹介します。
聖マルティヌスと乞食
エル・グレコとその工房/1599年後
鮮やかな色彩が目を引くこの作品は、カトリックの聖人であるマルティヌスがある冬の寒い日、道端で寒さに震えている乞食を哀れに思い、自分のマントを裂いて渡したという物語をテーマとした作品です。人が画面全体を占めるという構図は当時珍しく、グレコの作品は絵画藝術の世界に新風を吹きこみました。
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子供たちを私の元へ来させなさい
ルーカス・クラナッハ(子)/1540年頃
中央にいるイエスが、小さな子供たちを祝福している様子を描いたこの作品は、聖書のマルコによる福音書の中の一節を表現したもの。子供たちがイエスのヒゲや髪を引っ張って遊んでいる様子を描き、子供たちの純真さやイエスの愛情に満ちた慈しみを表現しています。
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途中、絵画の修復についての展示もあります。博物館には3人の修復師さんがいるそうです。
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画家としての登竜門であった公募展「サロン・ド・パリ」も再現
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19~20世紀の部屋は、トーマス・クーパー・ゴッチ、ギュスターブ・カイユボットなど印象派の画家たちが活躍する時代。近撮りの許可が下りなかったが残念なのですが、シャガールやダリなどの作品もこちらにあります。
楽器ホール(2F)
芸術ホールの向かいは、楽器ホールです。こには、それぞれの大陸ごとに分類された民族楽器が並んでいます。今でこそ音楽は、簡単に多種多様な音源を生み出すことができるようになりましたが、そのすべてのルーツは、木や動物などの大自然から生まれたもので、その土地の生活によって、それぞれ進化を遂げていったんだな……と考えさせられました。
この奥にある「管弦楽団への招待」のコーナーでは、NSO国家交響楽団と奇美博物館のコラボによって実現した、バーチャル演奏プログラムを楽しむことができます。これは楽団18人のメンバーが、ひとりひとつのディスプレイに登場し、みんなが一斉に演奏を始めるのです。まるで、実際のホールで演奏を聞いているかのような臨場感を味わうことができます。指揮者の位置に立ってみて、指揮者気分を味わうこともできますよ。
演奏時間は、10:00、11:00、12:00、13:00、14:00、15:00、16:00、17:00の1日8回です。演奏前から楽団の方が準備している様子から始まり、細部にまで手が込んでいるのがわかります。
お次は「自動演奏楽器」のコーナーへ。ここでは、オルゴールや木琴、オルガンなどが組み込まれた自動演奏楽器の、やさしい音色を楽しむことができます。
楽器は、小さな箱から食器棚のような大きなサイズまであり、ネジ巻き式のアナログなものや、コインを入れて作動するものなどがあります。
このホールでは、10:30、11:30、14:30、15:30、16:30の1日5回、演奏を聴くことができます。入場料金は20元で、各回3曲演奏されます。使用する楽器は、回ごとに異なります。
3挺のバイオリンとピアノによる自動演奏楽器は必見です!
最も難しいとされたバイオリンの自動化に成功したのは、ドイツのフップフェルド社とアメリカのミルズ・ノベルティ社の2社だけです。ここに展示されているのはドイツ製の方、上部の丸く出ている部分に3挺のバイオリンが収納されています。
許文龍氏は、自らもバイオリンの演奏をすることで知られていますが、博物館に収蔵されている数多くの楽器の中でも、バイオリンの種類は突出しています。このコーナーでは、世界的に有名な職人による銘器や、世界に数本しかない希少品を見ることができます。
400年以上の歴史が刻み込まれたバイオリンが、今でもイキイキとしていることに驚きました。
何世紀も経てやっと定型が定まったという弓
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100年の歴史を持つバイオリン工房も再現
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カフェでちょっとひと休み!
館内には、1階と2階にそれぞれひとつずつカフェがあります。お腹が空いたとき、また歩き疲れた時に立ち寄って、ひと息入れるのに便利です。
信息咖啡(2F)営業時間:営業時間:9:30~17:30、水曜休み
L字型になった店内。ちょうど正面玄関の上にあたる、アポロン噴水を眺めることのできる席は、最も人気があります。優雅な気分でいただくアフタヌーンティーもおすすめですが、ここに来たからにはぜひ食べてほしいのが「爐烤安格斯肋眼牛排(リブアイローストビーフ/850元)」。4時間かけてじっくりと焼き上げたお肉は、口の中でとろけます~。
眺めのいい席
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提供時間は11:00~14:00ですよ~
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克里蒙納CAFE CREMONA(1F)営業時間:9:30~17:30、水曜休み
ギフトショップの奥にあるカフェ。ピザやキッシュなどの軽食メニューと、ドリンクが充実しています。カジュアルな雰囲気でのんびりできそう。
いちばん人気は「松露野菇(トリュフマッシュルームピザ/280元)」
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パイナップルケーキなど「奇美食品」のギフトもこちらで販売しています
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旅の思い出もお忘れなく!ギフトショップ
芸術鑑賞を堪能した後は、お土産を買うのをお忘れなく!館内には、各フロアにギフトショップがあります。どちらのギフトショップも(カフェもそうですが)、入り口と出口改札の外にあるので、チケットを購入しなくても利用することができます。1階エントランスホールを入って左手にあるギフトショップでは、展示作品の関連商品や書籍、食品などを取り扱っているほか、手紙や小包の配送サービスも行っています。
パッケージがかわいいドライフルーツセット(660元)も人気です!
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5種類の台湾ローカルフルーツが楽しめます
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2階の芸術ホール出口近くにあるギフトショップは、ポストカードやメモ帳など小さいお土産が中心
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絵本やおもちゃを取りそろえた子供用ギフトショップも2階です。
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特別展ホール
日常を見つめて ヘルマンテル
開催期間:2019年2月25日まで
※特別展への入場は、別途チケットが必要です。(常設展+特別展のチケット280元もあり)
定期的に展示内容の変わる特別展では、現在オランダの芸術家「ヘンク・ヘルマンテル」による展示を行っています。
「ヘンク・ヘルマンテル」は、宏大な絵は好まず、ありふれた日常のひとコマを描く画家で、そのものの質感までも伝わってきそうな表現をするのが特徴的です。
実際に絵を描くことができるコーナーも
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出口のところには、ギフトショップもありますよ~
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さて、再びエントランスホールへ戻ってきました。今回、館内をまわるのに、ほぼ1日を要しましたが、音声ガイドを借りて一つひとつをよりじっくりと鑑賞するならば、もっと時間がかかりそうです。「奇美博物館」を訪れる予定でしたら、ぜひゆったりとスケジュールを組んでみてくださいね。
以上、台北ナビ(岩田優子)がお伝えしました。