歳月を感じさせる琉球松に囲まれ、静かにたたずむ松園別館
こんにちは、台北ナビです。
松園別館は1942年(昭和17)年、日本軍施設として建てられました。徴兵に関する事務をする「兵事部」が入居していたといいます。「松園」というのは周囲を琉球松に囲まれていたため、この名がついたそうです。太平洋が見渡せる高台に置かれたので、視野は良好。美崙溪の入海状況ほか、当時は花蓮港や太平洋の船舶数、南機場の航空機の発着なども観察することができました。また、松林に隠れた建物もその動向は周囲から察しにくかったようです。日本統治時代は、将校、士官の接待宿泊所として利用されました。
戦後の1947年には、陸軍總部の管理下に置かれ、後に「美軍顧問團軍官休閒度假中心」(アメリカ軍人のレジャーセンター)として利用され、1977年には国家財産局の所有となりました。2001年「台湾歴史百景」の1つに選ばれてから、2002年9月23日に歴史的建築物としての認定を受け、2006年から政府が祥瀧公司に委託してリニューアルを施し、現在は文化イベントや展覧会、セミナー講座などの施設として利用されています。
花蓮でもっとも完成度の高い日本建築
右上の番号を押せば、日本語の説明が流れます
時代は大戦末期、日本軍が構築した軍事施設の一つで、中央に現存するのが代表的な建物です。
松園園区には4棟の建物があります。
1、 中央の建物「兵事部」(展覧スペース)
2、 松園餐坊(カフェ)
3、 松園概念工坊(ショップ)
4、 小木屋(松園故事館)
1、 中央の建物「兵事部」(展覧スペース)
中央の建物「兵事部」は、和洋折衷の様式で、磚木、鋼筋とセメントの混合で造られた2階建ての洋館。1,2階に回廊がありますが、屋根は瓦なので、東西がミックスした建築と言えます。窓枠などに日本式を取り入れていて、建物内の通気性がよく、天井も木造で組み立てられています。
戦時中に建てられた関係で、強固で耐性があり、外観上の過度な装飾は省かれ、一種の素朴美が感じられます。以前は正門横にも木造の建物があったそうですが、こちらはすでに朽ち果てしまっています。
中階
2階から
花蓮港が眺望できる最高の場所です。
ここでは、不定期で展覧が行われていて、文化イベントなどもこのスペースを利用します。海が望める廊下のソファに座ると、松林が風に揺れ、その向こうには、紅い菁華橋、中山
橋、美崙渓、花蓮港、紅い灯台、遠くに太平洋の大海原、点々と浮かぶ漁船が望めます。
2階の回廊から望む太平洋の景色
2、松園餐坊(カフェ)
オープンなカフェで、飲み物は100元~。セットメニューが199元~。スイーツやアフタヌーンティーのセットもあります。ここは兵士の宿舎でもあった場所です。
松園の豊かな生態と情緒を生かすために設置された野外劇場もあり、不定期的にイベントが行われ、毎年10~11月に開催される太平洋詩歌祭では、世界から集まった詩人が自作の詩歌を発表します。
松園生態池
生態池はカフェと小木屋の間にあります。
自然でありながら雑ではなく、松園別館の雰囲気にとても合っています。老樹や緑、池を眺めながらのお茶でも楽しみたいもの。ちなみにこの池が造られたのは、万が一火事になった場合の非常時に備えた貯水の用途もあったそうです。
カフェにつながっています
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2階から
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バリアフリー用として、エレベーターが設置されています |
松園別館の名前に由来となった「松林」。松園の名は、その広大な松林に由来しています。百年の古木が海岸沿いに緑の囲いを築き、独特の風情を醸し出しています。園内の琉球松(Pinus Luchuensis)は、当初潮風に耐えられないのでは?という心配をよそに十分環境に適応し、100歳を超えました。
地元の人たちはその松が建物を取り囲んでいる独特の様子から、鬼城(幽霊屋敷のような意味)とも呼んでいたそうです。確かに「慢漫生活概念工坊」に張り付くシダなどもすごいですね。入口右にはガジュマルに絡まれ、倒れてしまった門柱があります。
ガジュマルに食われた門柱
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こちらも完全に取り込まれています
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建物の周囲も一周してみましょう!
防空壕
正門位近い方の入口
正門から右の道をまっすぐ進んでいくと、地下へ降りていく防空壕の入口があります。
防爆門の右側で、長さ5m、高さ2m。当時ここで働いていた職員がそのくらいの数だったそうで、内部は20人収容できます。中に入ると予科練の歌が流れています。壁には写真や紹介文がありましたが、少し重い気分になるところです。
ここに座って、何思う…
沈んだ気持ちで、もう一つの入口から出ました
「1944年12月10日、連合艦隊司令部は桜花を台湾に集め、1945年1月10日以降レイテに参加させると計画。1月7日「龍鳳」は台湾の基隆市に到着して桜花を揚陸した。」
以上、Wikipediaより。
防爆門
防空壕の横にあり、弾薬倉庫でした。
門の厚さは4cmだそうです。
3、慢漫生活概念工坊(ショップ)
シダに覆われた建物で、MITグッズや記念品などを販売しています。内部は天井がむき出しになっていました。日本が去ってから米軍も一時期ここに駐屯していたそうですが、その時この建物は厨房として利用され、内部には当時のオーブンも置かれていました。
4、小木屋(松園故事館)
生態池の横にあり、不定期で親子イベントやセミナー講座、文学関連のイベントスペースとして活用されています。設計は台湾ならではの湿気と暑さを回避するために工夫され、上部にも窓があります。ここは、かつては軍官の集会所だった場所で、中央には神棚がありました。ここで出征前の若者が御神酒を賜ったり、終戦時には切腹を計った軍人もいたそうです。
周辺にも見どころあり
松園別館の周囲には、中華電信局の松園會館、自來水場や中國廣播TV局などがありますが、どこも琉球松が植えられていて、古風な素朴さと自然な風格を漂わせています。
2000年ごろ、松園園区内には約60本の琉球松がありましたが、害虫の被害を受け、更に台風などの天候の影響で、2014年には31本に減少してしまいました。現在はそれを補うために五葉松の植生を行っています。
「松園別館」へタクシーで行った場合、帰りが困ります。事前に頼んでおくか、ナビたちはチケット販売所でタクシーを呼んでもらいました。中村大佐の邸宅だったという「将軍府」が坂の下の方にあるので、こちらも合わせて見たい場合は、時間制でチャーターをするのもよいでしょう。
以上、台北ナビでした。