「自製自銷」(自分で作った茶葉を自分で売る)の茶農家兼茶藝館「美加茶園」、伝統の正叢鉄観音の滋味を楽しみましょう。
こんにちは、台北ナビです。
台北動物園から猫空を結ぶロープウェイ、「猫空ゴンドラ」ができてから、鉄観音の郷、猫空がぐっと近くなりましたよね。以前は車でしか行けない不便な場所というイメージが強かったのですが、MRTとロープウェイを乗り継げば、あっという間に茶所の真ん中に行く事ができます。
本日ご紹介するのは、猫空の「美加茶園」。台北で長くお茶を飲んでいる人なら誰もが知っている、老舗の茶農兼茶芸館で、猫空の茶藝館では最近少なくなりつつある「自製自銷」(自分で作った茶葉を自分で売る)が特徴です。
猫空駅から徒歩7分
目的地の「美加茶園」は、ロープウェイの終点猫空駅から徒歩7分のところにある茶芸館です。
駅を出て右の道に沿って坂を下ってゆきます。猫空駅のインフォメーションで地図をもらうと便利。記念にもなりますし、猫空全体象がわかって興味が湧きます。現在地と目的地を確認し、レッツゴー。
でも、本当にすぐについてしまいますよ。
階段をひたすら下りましょう
道の右側にある、黄色い縦書きの看板が目印。階段をひたすら下ってゆきます。階段沿いに建物はありますが、気にせずどんどん階段を下りましょう。今回は、秋にお邪魔したので、花壇は整備の最中でしたが、花の季節に訪れると、階段沿いに綺麗なお花が咲いていて美しいそうですよ。
人気は感じませんが、ひたすら階段を下り、鯉のいる池が右手に見えたら、到着です。黒いワンコが吠えながらお出向かえ。自信なさげに吠えていますが、一応番犬なので遊んではくれません。犬好きな人も犬嫌いな人も、ワンコは相手にせずに建物に向かいましょう。このワンコの吠え声で、お店の人は「お客さんが来たかな?」とわかるのでしょうね。可愛い呼び鈴ですね。
敷地を拝見
一番入り口に近い建物が製茶場で、焙煎機などの機器が置いてあります。
平日午後遅めに訪れたせいか、ナビ一行のほかにお客さんはいませんでしたが、休日や夜は、こちらの茶葉料理とお茶を目当てに、地元のお客さんが集うのだそうです。台北の人々は、美味しいものには敏感ですからね。でも、建物自体は凄く年季が入っています。お食事場所と泡茶場所が別の建物に分かれています。いずれも、窓がなく、景色を存分に楽しもうという造りです。緑が一杯で桜の木も見えましたから、花季は凄く綺麗でしょうね。ナビ、春に個人的に来てみようと思いました。
そして、ここからも絶景が!
泡茶スペースは、一つ一つの席に、分厚い木でできた茶盤が備え付けてあります。買えば高い、ソリッドな木の泡茶盤。自分で使う機会は少ないので、ここで存分に使いましょう(笑)。何もかもが、さりげなく贅沢です。平日は、他のお客さんがいないことが多いので、貸し切り状態で景色と泡茶場を独り占め。今日は、取材で訪れたので、老板自らがお茶をいれてくださいますが、次はプライベートで来て、自分で淹れて飲んでみたいものです。
ゴンドラも見えます。この日は霧雨が降っていて煙っていましたが、お天気がよければ、かなり見晴らしがよさそうです。
美加茶園の歴史
製茶場の右隣には、お茶の品茗販売所になっていて、大きな気のテーブルや椅子が置かれています。「美加茶園」の茶葉料理も有名なのですが、本日の目的は茶葉ですので、こちらのスペースでお茶をいただくことに。製茶師さんで、こちらの老板の張榮光さんがナビたちを迎えてくれました。「美加茶園」の「美加」は先代の老板のお名前で、今の老板は9代目。その昔、張老板のご先祖様は、大陸は福建省から台湾に渡ってきた茶農で、猫空に住むようになり、大陸から持って来た鉄観音の種や苗を植えて、製茶を始めました。張さんご一家は、代々茶農家を営み、その技術は、着実に子孫へ受け継がれています。
自分で育てた茶葉で製茶
こういうと、当たり前に聞こえますが、最近、栽培は他の地域に委託して、製茶のみを行う製茶師さんが増えているそうです。茶芸館を開いたり、または、製茶と栽培の両方は労働がきつ過ぎて続けられない、というのが理由だそうです。確かに、茶摘みは重労働。天候にも左右されます。他の地域で栽培に専念する人、こちらで製茶に専念する人、というふうに分業したほうが、経済的にも、労働力的にも効率がよいでしょう。
ところが、「美加茶園」では、車道から遠く離れた山の上のほうの茶畑で、自分での手で育てた茶場を、摘み取り、製茶し、販売をするというスタイルを貫いています。今では、このような一貫した農家はごく少なくなっているそうです。
よく日焼けして、物静かな張さん
だから、といったらよいのかわかりませんが、張老板はとても口数がすくなく、お世辞や社交辞令は言わないタイプです。
買い物をするときに、店員さんに美辞麗句を言われるのになれた人は、物足りなく感じるかもしれませんが、やはり、製茶をここまで突き詰めるには、ある程度専門性が高い人でないといけないのかもしれない、とナビは納得しました。
賞状の山
お茶を入れていただきながら、お部屋の様子を見渡すと、「金牌奨」等の一等賞っぽい、大きな木製の賞状が、2つ3つと天井近くの壁に掛けられています。ほかにも、額に入った無数の賞状が飾ってありました。凄いなあと思いながら、なにげなく棚の上を見ると、額縁のようなものが無造作に積み重ねられて放置状態。もしやと思って聞いてみたら、どれも製茶コンテストでの賞状。ええ~っ勿体無い。飾らないんですか?と聞いたら、「もう掛ける場所が無い」のだそうです。確かに、凄い量です。
が、驚くのはまだ早かった。張さんがおもむろに後の棚から、何かの束を、ものすごく無造作に取り出して、ナビにホイ、と渡してくれました。なんと、全部お茶のコンテストの賞状。「もう、かさばるから額に入れないでくれって頼んだんだ」と、ボソリとおっしゃったのが、面白かったです。実力を吹聴しない張さんが、かっこよく見えました。
お茶コンテストの賞について
我々素人にはあまり関係ありませんが、興味が湧いてきたので、コンテストの賞について教えていただきました。
台北市木柵區農會の、「優良鉄観音試合」の賞は、上から、特等奨、頭等壱奨、頭等奨、二等奨、三等奨、優良の6ランク。台湾の茶行改良場などから、プロの評茶師さんが審判としてジャッジを行うそうです。一番上と二番目の特等奨、頭等壱奨は非常に僅差で、甲乙つけがたいそうですが、それでも順位は決まり、勝ったお茶は、高値で売買されるそうです。
先ほどいただいたお茶もかなりおいしいけれど、お値段的には頭等奨くらい。だから、特等奨を取ったお茶って、一体どれだけ美味しいのでしょうね。
ちなみに、600g(台湾の一斤)のお値段で言うと、トップの特等奨は2万元、最後の優良は1800元ですから、ものすごい差があるわけです。
木柵農會の品質管理
頭奨(一等賞)のパッケージを見せていただきました。厳しくシールされていて、販売前にシールが破られたら、もう価値がなくなってしまうそうです。これは、地元木柵農會(日本で言う農協みたいな団体)の品質管理の厳しさをあらわしています。品評会で勝ったお茶は、木柵農會がパッケージとシールを行い、茶農家に戻されます。販売までに、他のお茶をブレンドして量を増やしたり、産地詐称を防ぐためだそうです。パッケージはかなり精巧で、偽造は難しそうです。やはり、ちゃんとしたところから購入するに、越した事はありませんね。これなら、実際の産量を流通量が上回るなんてこと、ありません。上のほうの賞をとったお茶には、相当な値段がつくので、産量を把握してきちんと販売するところまで、管理の目を光っています。
職人気質の張老板
張榮光さんは、シャイで無口な印象で、生粋の製茶師さんという感じです。台湾人は、一般的に社交的で、話し好きが圧倒的に多そうですが、無口な方はいるのですね(笑)。こちらが質問すると、ミニマムな回答しか返って来ませんが、お茶を淹れて下さる手を休めることはありません。美味しいお茶をどんどん淹れてくださいます。
いただいた一杯目は、勿論ご当地鉄観音茶。ナビとカメラマンさん(♀)は、開口一番「わあ、美味し~い!」。凄い甘みです。失礼ながら、思わずお値段を聞いてしまいました。一斤(600g)6000元のお茶だそうです。ご自分で作ったお茶なので、卸のお値段だそうですから、街なかのお茶屋さんで買うよりお得なはず。しかし、いいお茶はほんと、美味しいです!
鉄観音作りは重労働
無口な張老板が、ナビたちにやっと慣れてきた様で、少しずつお話をするようになってきました。勇気を出していろいろきいてみましょう。この辺りでは、春、秋、冬の3回収穫を行い、茶摘みをするそうです。
お天気は待ってくれませんから、そろそろ摘み時という時に雨が降りそうだと、急いで摘み取らなければならず、精神的にも体力的にもとても大変だとおっしゃっていました。茶葉は、摘んだらすぐに発酵が始まってしまうので、茶摘みで疲れていても、そのまま製茶の行程に進むしかなく、気温や湿度などを気にしながら発酵の加減を見極め、発酵を止めたら揉みに入らなければならないそうで、この間ノンストップ。徹夜は必須で、翌日の午前に仮眠を少々とれるかとれないかという状況だそうです。
また、茎を取ってあるのも木柵鉄観音の特徴のひとつなので、一粒一粒余分な茎を手で取り除いていきます。さらに、焙煎をしっかりめに仕上げるので、更に合計6-7回に分けて焙煎を行うそうです。一回焙煎したら、次の焙煎まで数日休ませるため、他のお茶と比べても、かなりの時間と手間がかかります。でも、「大変だよ」というだけで、ちっとも嫌そうではありません。
美味しいお茶を作るには、重労働をいとわない、張さんのような製茶師さんの存在が欠かせないのがよくわかりました。
産まれたて、木柵紅茶
台湾の夏は、何処も彼処も暑くなりますから、以前は紅茶を作るエリア以外は、夏場は製茶もお休みしていましたが、この暑さを生かして、全発酵の紅茶を各地で作る動きが出てきています。
木柵紅茶は、香りが高く、優しいお味。アッサム品種や大葉烏龍のような力強さではなく、包み込むような優さが魅力。従来紅茶を作るのに使ってきた品種とは違う、鉄観音や金萱などを使って作った紅茶は、いままでにない新しいお味がします。出会ったら、是非挑戦してみましょう。木柵紅茶は、「韻紅(ユィンホン)」と命名されています。
茶葉の小売もしています
猫空は、鉄観音茶の産地ですが、茶芸館ですから、他の酒類のお茶も販売しています。東方美人、烏龍茶、四季春、水仙、文山包種、阿里山金萱、杉林渓高山烏龍などもあります。(烏龍茶とある場合は、青心烏龍という品種を使って作った球形茶を指すか、部分発酵の球形茶を数種類ブレンドしたものを「烏龍茶」と呼ぶ場合が多いです)
農家から直接買うという玄人な購入方法が魅力で、わざわざ来るまで遠路遥遥お茶を買いに来る常連さんも多いそうです。
張老板の趣味
ぽつりぽつりとお話ししながらも、お茶を入れ続けてくださっている張老板。賞をとったりすることに対する自慢は無かったのですが、時折、使用中の茶壺の説明をすることが判ってきました。席の隣のガラスケースには、実に沢山の茶壺や茶杯がディスプレイされています。
実は張老板は無類の茶器好きで、コレクションは多数だそうです。今日使用しているのは、今話題の岩鉱壺。備前焼にちょっと似ていて、遠赤外線のような潜在パワーがあり、お水やお酒、お茶をおいしくするのだとか。無口な方が、茶壺の話しになると少しだけ饒舌になり、一番のお気に入りを見せてくださいました。台湾人作家の作品で、茶壺や茶杯の外側がひび割れたようなデザインが特徴だそうです。
ひびわれは表面だけで、あくまでもデザイン
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後に作家さんの刻印がはいってます
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奥様と上手に分業
お料理上手な奥様は、控えめながら人懐こい感じの方です。張さんの奥様が、先代老板娘と共同開発したという茶餐は、この界隈では評判のおいしさで、実はナビも一年前に一度、お料理を食べに寄った事がありました。たくさんあるお食事どころのなかから、自分で決める事ができず、道行く地元の人におすすめを聞いて、たどり着いたのが「美加茶園」だったのです。
今日はお茶の取材なので、お料理はなしですが、機会があったらレポートしてみたいものです。ちなみに、メニューは写真入ですので、日本語版はなくともわかりやすいです。
茶葉と茶請けメニュー
~茶葉~ 特級正欉鉄観音 450元
正欉鉄観音 350元
仏手 300元
水仙 300元他
この他、高山茶、金萱、四季春、包種、東方美人があります。
お茶うけ~ 花生(ピーナッツ)、瓜子(瓜の種)、蠶豆(そらまめ)、魷魚絲(さきいか)、芒果乾(ドライマンゴー)、牛肉乾(ビーフジャーキー) など大体が一皿50元より。種類はかなり豊富です。
※価格は一例です。茶葉の年度により価格も異なりますので店頭でご確認ください。
~料金~茶水費(お水代)
昼間 大人60元 18時以降 80元 22時以降 100元
茶葉持込の場合
昼間 大人100元 18時以降 120元 22時以降 150元
※ 子供はどの時間帯でも40元かかります。身長130センチ以下の子供はお水代無料。
猫空エリアの茶芸藝館の気前よさ
猫空で茶芸館に入ると、お得な気分になれるのは、市内の茶芸館と似た様な金額で、貰える茶葉の量がとても多いこと。市内ですと、精々9g程度、たまに12gというところもありますが、2両(75g)も貰えます。一般的なサイズの茶壺でいれると、8回分にもなります。飲みきれなかったら、持ち帰ってOK。産地ならではのお徳さですね。
営業時間
分業ばっちり。オシドリ夫婦です。
体力的に厳しいお仕事だと思ったので、茶藝館の休日をお聞きしたところ、なんと年中無休とのこと。旧正月は?というと、「どうせ自分たちここにいるから、お店は開けておく」とのことです。通勤はなく、住んでいる場所で商売もしているから、お店は開けておくという、台湾の昔ながらの商売の姿勢がそのまま残っている感じで、実直な老板ご一家だなあと改めて感動。大体、午前中遅めの10時ごろからお店を開けて、夜は大体11時を目安に、お客様がいなければ閉めるし、お客様がいれば、12時過ぎまでお付き合いして開けておく、ということで、今の台北市内のように何時から何時までという線引きは無いそうです。ですから、確実な時間は、朝10:00~夜11:00といったところでしょうか。もし、帰りの飛行機の時間の関係で、朝もう少し早い時間に来たいということなら、電話して聞いてみるとよいと思います。ただし、中国語しか通じませんので、ホテルの方などに頼んで電話してもらうとよいでしょう。
夜景が綺麗
だんだんと暗くなってきました。「美加茶園」から望む台北市内は、徐々に明かりがともり始めています。晴れた日の夜は夜景が綺麗で、夜にお客さんが多いそうです。次は是非、夜にもきてみたいと思いました。
お茶を沢山飲ませていただき、大満足です。こんなに猫空が近くなっているなんて、世の中進歩しているなあなどと思いながら、元来た階段を上ります。
あれ?電気がともっていますよ。夜来るお客様のために、上の看板に、そして細い階段沿いに、クリスマスのような電球が灯り、道しるべのようになっています。
美加茶園を訪れてみて
いまでは、MRTとゴンドラを使って、あまりにもあっという間に猫空駅着いてしまうので、台北の都会にいる心持ちのまま来てしまうと思いますが、猫空は基本的に伝統的な農村地帯で、田舎です。都会での近代的変化とは関係なく、脈々と自分たちの暮らしを続けている人々の場所なのであります。それでも最近では、都会風に、至れり尽くせりを目指すレストランがふえているようですが、「美加茶園」のおもてなしは、とても素朴で、お客様との距離をとりながら、遠くで見守ってもらっているような、ほんわかと心温まるものでした。
隅々まで行き届いたサービスを心がけるお店もあれば、こちらのように、超等身大で無理をしない、素朴なお店もあります。外国を旅行する時に、その土地の、昔ながらの飾らぬ部分を感じるのもまた、醍醐味かと思いました。
「美加茶園」は、大人数で訪れるのでなければ、特に予約の電話などは不要ですが、初めてで慣れず、自信が無いと思うときには、「何日の大体何時ごろ行きます」と電話を入れておいたほうが、確実かと思います。ふつうに生活をしながらのお商売ですので、今日はお客さんが来なさそうだ、と思ったら、用事を足しに出かけてしまったりすることもあるかもしれません。中国語しか通じませんが、一本の電話が、気持ちよく美味しいお茶を飲むためのお膳立てになると思えば、ひと手間かけるのも手かな、と思いました。
以上、美味しいお茶でお腹一杯の、台北ナビでした。