心に残る景色と美食。ここに来るためだけに台東まで足を伸ばしたいほどの感動がある!
こんにちは、台北ナビです。
「台東にフランスのミシュラン星付きレストランで腕を磨いたシェフが作る創作フレンチがある」そう聞いてやってきたのは台東北部の「長濱」にある「Sinasera 24」です。肩書きだけが大きくて実はそうでもないっていうことも多い台湾ですが、ここの料理は本物!台湾全土でここでしか食べられない本格フレンチ×台湾食材のコラボレーションは、このためだけに台東へ行っても惜しくないほど、心に染み入る味でした。
長濱の地とのご縁
「Sinasera 24」の一番の売りはその料理の素晴らしさですが、それを支えるのが総料理長である楊柏偉さんです。
学業はお世辞にもいいとは言えず、技藝專班で学ぶことを決めます。ここで出合ったのが「料理」でした。中学校のバイトはパン屋と、学校でもその外でも料理を学び、中学、高校、大学、大学院、フランスとずっと料理一筋。しかしずっとフレンチに邁進していたわけではありません。台南出身ということで、辦桌も学び、台湾料理など、中華にも精通しています。
それだけでなく、23歳の時にはフルーツ&ベジタブルカービングの世界チャンピオンにも輝きました。そんな彼がその時の栄光も捨てて、従事したのがW台北のシェフから学んだフレンチ作りでした。
台湾に兵役があるというのは有名ですが、「替代役」という制度があるのをご存知でしょうか?楊さんは軍事的な訓練を1年間行うのではなく、社会貢献のために兵役期間を過ごしました。
その社会貢献とは「料理」を教えること。その場所として、花蓮の南部に接する台東の北部「長濱」の長濱國中(中学校)を選んだのです。元々都会よりも田舎が好きだったことから、訪れたことのない土地を選びました。1年という期限の中で楊さんが一番伝えたかったことは「食材」を理解すること。いわゆる食育でした。
台湾には様々な食があふれているけれど、自分の身体に取り入れるものをきちんと理解して選択できる人になって欲しいと考えています。
兵役期間の終了に近づいた頃、楊さんの教育が一過性のもので終わることのないよう、台湾東部にいるシェフたちにこの食育を続けてもらえないかとお願いし、学生だけでなく、親への食育をも行いました。1年だけの滞在なのに、長濱のことを深く考えていたのですね。
そして長濱の食育を見届けた後、楊さんはフランスへと修行の旅に出ました。
星付きレストランで学んだこと
楊さんが語学研修の後に入ったのがひとつ星レストランの「La Bonne Etape(ラ ボン エタップ)でした。
楽しいことより辛いことの方が多かったといい、毎日16~17時間働き、日が昇る前に家を出て、暗くなってから帰宅という生活だったそう。料理の技術力とかそういうものよりも、語学の習得が一番大変だったというのが、何とも楊さんらしい!
働き始めた頃は華人のくせに……と聞くに堪えない言葉も浴びせられたのですが、要所要所で自分の能力を発揮でき、しかもそれを上司がきちんと見ていてくれたおかげで、一定の担当を任された後は、そんな言葉は聞かなくなったようです。
その後その実力を見出されて、マルセイユ初の3つ星レストラン「Le Petit Nice - Gérald Passedat(ル・プティ・ニース ジェラルド・パセダ)」で、働くことになった楊さん。
見習いから始めたということですが、この時も半年でポワソニエ(魚料理の係)を任せられる大出世を果たします。地中海料理は魚介類に重きを置くので、この仕事を任せられるということは名誉でもあります。
そんな最高級フレンチの世界で見たのは、高級食材をふんだんに使うというものではなく、『身近にある食材の魅力を最大に引き出す』という考えでした。
自分の土地で農夫を雇って、野菜作りを行い、自分で収穫も手伝うという生活をその目で見たことも大きく影響しています。3年間のフランス生活で、食材を尊重する方法、食材の使用方法、食材に価値を見出す概念、つまりフレンチの主役は食材にあるということを学びました。
この味を求めて長濱に足を運んで欲しい
「Sinasera 24」のある建物
ノリにノっていたその時、台湾からひとりの企業家にヘッドハンティングされた楊さん。その誘いに乗ることにしました。だけれど、この決断に多くの人が反対。
フランスで就労ビザを持っていて、しかも星付きレストランでの勤務。これ以上の条件があるだろうか?と。しかも、新しくレストランを開く場所は台東の長濱。辺鄙だし、そんなところにお客さんが集まるの?というのが大方の疑問でした。
巨大なダブルレインボー出現!
楊さんは言います。ただ単純に自分の料理を作りたかった、と。それを実現できるんだったら何にも惜しいことはない。とは言っても4月に打診があって9月にやっと返事をしたから、これでも結構考えたんですよ!と笑います。
長濱は辺鄙だけれど、欧米にある人気・評価共に高いレストランって結構そういうところにあります。だから、この「Sinasera 24」もそういうレストランにしたかったんですね。
「Sinasera 24」は海、田んぼ、山に囲まれているレストランです。つまり、食材の産地を直に感じられるという魅力があります。これって台北の都市では絶対に体験にできないことだと思いませんか?
しかも長濱はすばらしい食材が収穫できるだけでなく、塩、黒糖、苦茶油、バニラなどの調味料まであります。この土地で在地の食材を活かした料理を作る。これこそが長濱でしかできない、楊さんの料理作りなんです。
食材を大切にするのがフレンチの肝
店名の「Sinasera」とは、アミ語で「大地」という意味で、「24」は24節気を表しています。台湾東部の大地が生み出す食材の数々は自然であるがゆえ、供給量や質に安定感はありません。そのため、メニューはよく変わります。その日の食材の状況を見て、色々アレンジを加えていきます。
もちろん、現代の技術をもってすれば、長期間同じ食材(大きさ・質など)を使い続けることもできますが、それは大自然の摂理に外れること。楊さんはそういうことはしたくないといいます。自ら産地に出向いて、いい食材に出合った時はいつも興奮してしまって色んな考えやレシピが浮かぶという楊さん。産地や食材の話になると目がキラキラして少年のようになってしまっていて、あぁこの人は根っからの料理人なんだなぁと感じます。
レストランのすぐそばでニワトリが放し飼いされていました!
楊さんはスタッフを連れて産地へ向かうこともしばしば。
というのも、スタッフにも食材の産地を体験してもらいたいという考えがあるからです。そうすることで、料理を紹介する時に説得力が出てきます。ただ知識を覚えるだけでは伝えられない感動というものがあり、それは体験したことから生まれてくるはずだと信じています。
「Sinasera 24」での食事終わりには、その日食べたメニューが配られます。そこには料理名ではなく、食材の一覧が書かれているのですが、これって、『フレンチは初めから終わりまで食材を語っている』という楊さんの言葉を体言してるなぁと感じさせるもの。そして、サーブされる毎に詳しい食材の説明があるのも、「Sinasera 24」ならではだなと思います。
目と舌が喜ぶ本格的フレンチに舌鼓!台湾東部の豊かな味に幸せになります
この日ナビが食べたのは1800元のコースですが、楊さんのオススメは3800元のコース。是非次回はお金を貯めてこっちを食べるぞ~と思わせてくれる味でした!
暑い日なので南竹湖集落のスイートコーンを使ったというアペタイザー。コーンの甘さが活きている一品で、お菓子感覚で食べられます。富里産の原木栽培で作られたシイタケから作られたソースがおいしさのポイントです!そのほか、永福集落のレッドキヌア、ジャガイモ、パクチー(コリアンダー)が使われています。
宜蘭産のオイノカガミを使った料理。ミントの緑色が涼しげです。ミントとセロリが爽やかで、貝の臭みは一切感じません。酸味も強く夏にピッタリの味でした!
昆布が海苔のように見える料理。磯の香りが口いっぱいに広がり、宜蘭産の九孔鮑(トコブシ)と甜豆(スナップエンドウ)の食感が面白いです。隠し味は鮑魚肝(アワビの肝)。食べれば海へダイブしたくなってしまうようなワクワクする味です!
ナビ、このパンに惚れました!
鹿野の紅烏龍、舞鶴の蜜香紅茶、金棗(キンカン)、マカダミアナッツを練りこんだパン。ナッツの香ばしさと苦味がやみつきになるんですが、金柑の酸味がいいアクセントになっています。これに南溪集落で作られる苦茶油をつけたらもう最高!
料理の終盤にレッドキヌアで作ったパンも登場しますよ。
1年を通して食べられるお料理。台東を代表する食材である鬼頭刀(シイラ)を48時間熟成させたものをお花のように飾り、その横にはトビウオの生クリームをあしらえています。最後に目の前で乾燥マグロを削って完成!緑のゼリー状のものはキュウリと過山香(ピンクワンピ)から作られていて、キュウリがトビウオに合っています。ナビはトビウオのクリームの燻し感が気に入りました。
口の中で、シイラがトビウオを食べている物語が紡ぎだされているかのようで、味わい深いお味。さすが看板メニューなだけあります。
鹿野産のアスパラガスを出汁で味付けしてから油で揚げた料理は、てんぷらのようなお料理でした。ラベンダーなどのハーブを散らし、見た目にも美しい!
堺橋産の白エビは成功産のタケノコに巻かれていて、タケノコがまるでエビの殻のようです。これにあわせたのはなんとパクチー(コリアンダー)のヨーグルト!ナビはパクチーが苦手なので、一般的なヨーグルトに変更してもらいました。イタリアンジェラートはアスパラガス味というからビックリ。その下には白ワインで煮込んだ蓮霧(レンブ)が添えられています。
ナビは隠し味に使われているパッションフルーツソースの酸味の虜になりました!
1ヶ月熟成させた金門のアンガス牛は炭火でグリルしています。中は柔らかくちょうどいい火加減。炭火焼しているから、お肉自体の香りもとってもいいんです。
添えられているのは、蕗蕎(ラッキョウ)、佛手瓜、その上には香り高いゴボウのフライがどーんとのっています。ゴボウと鶏肉から作ったソースは旨味たっぷりで、金門の牛肉のおいしさを再認識しました!
長濱の鵪鶉(ヨーロッパウズラ)のそれぞれの部位を、焼き、揚げるなど様々な調理方法を使った1皿。てっきり肉の種類が違うのかと思ったほど、味が違うんです。こんな料理は今まで食べたことない……。おいしくて驚いて、絶句したのは人生で初めてです。塩加減と火加減が絶妙で、各部位の旨味を引き出していて、これはすごすぎました!語彙力が追いつかないほどのおいしさがありましたよ~。
デセール(デザート)は鹿野産のドライパイナップル、花蓮のホップ、長濱の黒砂糖、九層塔(台湾バジル)で作ったチーズケーキでした。色んな味がミックスしているのに、口の中でおいしいのハーモニーが生まれる魅惑のスイーツです。
刺蔥と呼ばれる原住民の香辛料を使ったマカロン。中のクリームは山胡椒(これも原住民の香辛料)とフォアグラから作られていて、甘じょっぱいんですが、病みつきなります。ちなみに下の草は刺蔥。飾りなので食べられません。月桃の種から作ったプリンはほのかに感じる月桃の香りに屏東のココアがよくマッチしています。青マンゴーのマシュマロは酸味と甘みのバランスがピカイチでした。
この3つはプチフールでコーヒーに合わせる小菓子でした。
宿泊施設も素敵です!
「Sinasera24」は「畫日風尚」という小さな旅館の1階にあるレストランです。ここで夕食を食べるほとんどの方がここに宿泊します。ナビも宿泊してみました。
室内はこぢんまりしていますが、設備はホテル並み。バスタブ付きだし、ウォシュレットも完備されていました。アメニティはロクシタンなんですよ~。